寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

戦う君の歌

まるで自分を切り売りするかの女性がいる。

Twitterでシモネタなどの過激な発言をして注目を浴びる。あるいは、町中で奇抜な格好をして笑われる。彼氏に強がって振られてしまう。

彼女がどこまで意図してやっているのかわからない。恐らく半分はわざとで、半分は天然だろう。危なっかしいと言えば危なっかしい。時には人に嘲笑され、あるいは、悪意をぶつけられ。

「またやっちゃった」と彼氏と別れたら僕に連絡がきて食事をする。僕は安いイタリアンをごちそうしてあげる。あるいは、「なんか怒られてる」とTwitterで炎上しだしたら僕にLINEがくる。僕は「そうかそうか」と近所のファミレスで話を聞く。「そうかそうか」だけしか言わない。

そんな時、彼女の手は震えているストローの袋をいじる手が震えている。幼稚園の頃から何も変わっていない。彼女は、男の子から「バーカ」と言われ、震える手でたんぽぽを紡いでいた。今でも、自分が不安定な時は、彼女の手は震えている。

それでも、1つ失敗をする度に彼女は強くなっていく。まるでバネのように1つ沈むと次のジャンプを高く飛ぶ。いつしか人からの「馬鹿」という批難は無視できるようになったし、悪意のあるヤジにも毅然と立ち向かえる度胸を手に入れていった。

まるでスノボの初心者が雪山で尾てい骨をうちつづけながら上達するように、いつしか彼女は軽やかに人からの嘲笑と羨望の上をすべり続ける。手を震わせながら、それをさとられないように上手に滑る。

いつしか、嘲笑の割合が嫉妬と羨望にとって変わる。いくら批難されても立ち上がる者には人は畏怖を覚える。人は誰しもへこむ。それを物怖じせず突き進めることはそれだけで圧倒的な才能なのだ。タフである、というのは強い魅力なのだ。

人は言う。

「彼女は何と戦ってるんだ」と。

決まってるじゃないか。自分と戦ってるんだよ。自分の手の震えを抑えるように、彼女はまた一歩を踏み出す。批難を受ければ受けるほど「ナニクソ」と戦う彼女は、戦国時代に生まれればいっぱしの武将になったかもな、と思うほどだ。

恐怖と戦い手を震えながら槍を振り回す武将。そんな武将になら殺されてもいいな、と思う。できれば「そうかそうか」と言う乳母あたりの役目がいいけれど。

大人は秘密を守る

椎名林檎が作詞作曲した最新曲に「おとなの掟」という歌がある。ドラマカルテットの主題歌となっている歌で、歌うのは、ドラマの演者さんたちだ。

その最後のフレーズは

おとなは秘密を守る

というものである。

- そうだよなぁ

と強く同意してしまう。大人は秘密を守るのである。

逆に言えば、子供のころは秘密は守らなかった。守れなかった。つい誰かに言ってしまっていた。それは「タカシの好きな子、あかねちゃんだって」といった友達の恋愛事情や「うちの家に貯金はないんだって」といった家庭の事情まで。「ここだけの話だよ」という条件の元に、子供はそれを言ってもいいと解釈していた。

その秘密を言うことによって注目を浴びるという承認欲求に端を発しているのだろう。あるいは、秘密を共有することによる共同体のグルーミング効果もあっただろう。秘密を共有する者同士は仲良くなるのだ。犯罪者同士が仲が良いのと同じで。

そもそも、子供は秘密を守っておくほどの度量がなかった。秘密を黙っておくというのは精神力が求められる。子供のキャパはそんなに大きくない。そうして、子供は秘密をばらまいていた。「世界に言わなければ少しはいっていい」という独自の解釈で秘密をばらまいていた。

大人になると違う。大人になると秘密の濃さもましていく。増すにつれ、それを漏らした時のリスクが大きくなり、黙っておくようになる。

そうして、大人は秘密を少しづつ守れるようになる。

でも、そんなにみな秘密が守れるなら、世の中、週刊誌は売れていない。秘密を持っておくというのは辛い。人は人に言いたくなる。そうして、子供の頃と同じように「ここだけの話ね」という呪文の元に秘密は公開される。とはいえ、子供のように、ストレートには言わない。相手も選ぶ。大人の解釈では、それは「秘密を守る」の範囲内だ。

いずれにせよ大人にとっても秘密は厄介だ。

僕は、口が固いと思われているのか、人から秘密を告白される。不倫の話や人の悪口、あるいは、犯罪の話まで。教会の牧師さんのように僕は黙ってその話を聞く。何もアドバイスしないし、何も反論しない。ただ、黙って話を聞く。そして、人は話をしたことに満足して次に向かう。

僕だけが秘密をどんどん抱えることになる。壺に石を投げ込まれるように、僕の心の壺には消化できない石がどんどんたまる。時には石のせいで、壺に入った水がこぼれていく。でも、僕はその秘密は誰にも言わない。なぜなら大人だからだ。

その分、こうやって匿名のブログに秘密をちょびっとだけ書く。秘密の再加工だ。そうして、秘密は秘密じゃなくなり、小話になって街を歩く。静寂が終わりを必要とするように、秘密も開放を必要とする。まるでエントロピーの法則のように。

大人は秘密を守るけれど、その分、葦は必要だ。王様の耳はロバの耳って叫ぶための。

そうやって、大人は秘密を守る。

帰宅途中の家の灯り

いつも灯りが灯っている家があった。夏は窓を明けているからだろう。たまに笑い声も外に漏れてくることもあった。

男はその灯りが好きだった。

駅から遠い男の家。畑と空き家ばかりの帰り道。

そんな帰宅途中にあるその一軒家の灯りは、男にとっての灯台のようなものだった。行き先を間違えないように見守ってくれる灯り。仕事で帰宅が遅くなった時もその家に灯りが目に入ると、「起きて待ってくれていたんだな」と、励まされた。薄暗い帰り道を灯して、男を助けてくれた。

同時に、安らぎでもあった。家に帰っても誰もいない。でも、この家では灯りを灯してくれている。1人じゃない、と勇気づけられた。

ただ、ある日、電気がついていない日があった。それまでも何度か暗かった時はあるので「今日は残念だな」と思った程度だ。

でも、翌日も翌日も真っ暗だった。「おかしい。旅行かな」。男は不安になった。暗い日が一週間は続いた。

男は自宅に帰ることが怖くなった。灯りのなくなった道を1人で歩くようなものだ。不安で、そして、怖い。

家に帰ることが怖くなった男は、ネットカフェで寝泊まりをする日が続いた。しかし、お金は続かない。男はいやいや暗い夜道を帰ることにした。

「どうして灯りをつけないんですか」とその家もインターホンを鳴らしたこともある。でも、誰もでなかった。もしかしたら引越したのかもしれない。あるいは事件に巻き込まれたのかもしれない。

「では、自分で灯りをつけるしかない」と男は考えた。男は家の周りに灯油をまき、ライターを投げ込んだ。

ぶわっと炎が広がり、その暗い家を明るく照らし始めた。

男は満足して、家に帰った。

この辺りが家が少なく薄暗いのは、「放火魔が出る」と言われて誰も住みたがらないから、ということを男は知らない。

ホワイトデーって、大変やデー

いやー、大変やで。えらいことや。何が大変やというとホワイトデーやで。ホワイトデーってなんでんねん。

調べたら、日本だけの習慣らしいな。お菓子やさんが仕掛けたんやて。商売うまいなー。やりよるわ。ただ、お陰様で、ホワイトデーって何をあげたらいいかわからへんようになってしまってるやん。マシュマロだの、クッキーだの、飴ちゃんだの。

あめちゃんあげるいうたら大阪のおばちゃんしか思い浮かばへんな。あのおばちゃんら毎日ホワイトデーなんかな。

なにあげたらいいか、もっとわかりやすくせいや。ホワイトデーっていう名前やったら、「白いものをあげる」とかしてくれたらええのに。ほたら、イカとかあげるのにな。なんでやねん。

いやね、ちゅうのもね、チョコをもらってしもたんや。いや、会社の子やで。部下や。だから義理ちゅうのはわかっちゃーるけど、そりゃチョコをもらったらうれしいわけや。世の中でチョコもらって嬉しない男はおらへんからな。間違いないで。当たり前や。かぼちゃ食べたら口の中の水分が吸い取られるくらい当たり前や。

ちゅうことで、チョコや。一大事や。事件やで。大変や。もらったチョコは神棚に飾ってから食べたわ。チョコだけにチョコっとづつな。

そんで、チョコもらったら、そらお返しせんといかんとなるやろ。借りた金を返すように、チョコもらったら返さなあかん。そんなん幼稚園でも習うわ。幼稚園いうたら、遠足の時に、友達に、たこウインナーをあげたら、エンドウを返してもらったことあるわ。それお返しとしてはしけてるなぁとおもたわ。まぁそれはええわ。

そやから、全力で考えるわ。まず、「ホワイトデーってなんでんねん」って調べるわな。全然わかれへんかった。お菓子をあげる日らしいわ。

ほな、何あげよか。イカはあかんやろな。モンゴイカでもあかんやろ。お菓子か。マシュマロか。そやけど、マシュマロって調べたら意味あるらしいで。「マシュマロみたいに、あなたを包む」とかやて。そんなん、いちご大福でもええやんな。餃子でもええやん。

カロンどうや。おしゃれやろ。名前もかわいいし。マカロンでええんかな。でも、こんなおっさんがマカロンとか買ってたら、調子のってるように思われるかな。「かまぼこでも買ことけや」っていわれるかな。

連れに相談したら、こうゆっとったわ。

「ホワイトデーくらい、早く帰宅させたったらどうや。今日だけはホワイトな会社や、いうてな」

「異論なし(色なし)!」と、言うかもな。ホワイトデーだけにな。

 

ひとつだけ忘れたいことを忘れる花

やさぐれて歩いていた。

なぜなら恋人と別れたからだ。恋人と別れた男は、例外なく、やさぐれてあるく。道端に落ちている空き缶を蹴飛ばすように。月に吠えるように。

すると、ぽつんと花屋さんを見かけた。普段ならあまり気にも留めないが、今日はそのまま家に帰るのも嫌で、ふっと除いてみた。

マリコの好きな花は何だったっけな、と思い出したくもないことを思い出す。ユリ、バラ、チューリップと見ていると、1つ、不思議な花を見かけた。

 - 1つだけ、忘れたいものを忘れる花

この花を買うと、1つだけ忘れたいことを忘れられるらしい。きっと俺にとっては、この辛い別れを忘れることができるだろう。

躊躇なく購入した。

そして、花を持って帰宅する。

- あれ、何も忘れていない

彼女のことも、辛い別れも覚えたままだ。なんだよ、と思う。こんな辛い思い出が残ってると、眠れないよ。この花に騙されたのか。

そんなことを思いながら、花を玄関において、男は夕食をとる。酒を飲みながら考える。こんなに失恋が辛いとは思わなかった。耐えられない。息ができない。食事もできない。彼女の声が聞きたい。

男は、携帯をカバンから取り出す。少しだけ声を聞きたい。彼女は電話をとってくれるだろうか。

- あ

彼女の名前を思い出せなくなっていることに気づく。あいつはなんていう名前だっけ。

名前がわからないから、電話もメールもLINEもできない。あいつはなんていう名前だっけ。

名前を思い出せないだけで、彼女との記憶が全部曖昧になっていく気がした。名前のない思い出は、自分の記憶の沼の中におぼれていった。鍵を捨てられた靴箱の中の靴のように、誰も触れることができない暗闇に、あいつの記憶は沈んでいった。

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以下の記事から発想を得ました。

»ひとつだけ忘れる木 : 2chコピペ保存道場

終電かタクシーか

年度末だからか仕事が忙しい。忙しいからミスもしてしまう。すると更に忙しくなる。

そんなことで、毎日終電帰りが続く。終電を逃さないうちは、まだ大丈夫、となんとか自分に言い聞かせている。

でも、今日はとうとう終電を逃してしまった。そもそも、20時の時点で「あ、今日は終電が無理だな」と思った。今日中に仕上げないといけない仕事があまりにたくさんあったのだ。コンビニで野菜炒めとおにぎりを買って、もくもくと仕事を続ける。

結局、終わったのは2時。「やっと終わった」という達成感よりも「早く帰りたい」という思いの方が先に出る。なぜなら明日も会社があるから。明日の会社のために少しでも体力は回復しておかなければ。社会人は、ロールプレイングゲームだ。自分の体力を管理しながら、戦い続けないといけない。

会社の前でタクシーに乗る。これは経費落ちるかな、と思いながらタクシーに乗る。

行き先を言ってしばらくすると「お疲れのようですね」タクシーの運転手が話しかけてきた。ゆっくりしておいてほしいな、と思いながら「ええ、まぁ」と答える。

「寝るのが一番ですよ。寝るのが。

たまに仕事してて『眠いな』という時があるでしょ。あれって、睡眠不足だからじゃないんです。脳が『休んでくれ』と悲鳴をあげてるんです。だから脳が眠らせようとするんです。眠いのに、起きてるとだめなんです。脳が困っちゃいます。

でも『仕事があるから眠れない』って思ってるでしょ。そうですよね。寝れるならこんな時間にタクシー乗ってないですよね。

でも、実はねれない場所なんてないんです。この間、電車に乗ったら、大きないびきをかいて寝ている人がいました。いいなぁ、と思いましたね。あのおじさんにとっては電車もベッドの代わりなんでしょう。ああいう人は長生きします。

世の中で寝てはいけないのは雪山くらいですよ。本当に疲れたらすべてを忘れて寝たらいいんです。仕事なんてほったらかして。起きたらなんとかなってますから。

人間の身体は自分が思ってるよりよくできています。寝ている間にいいアイデアが浮かびますから、きっと。

私の曖昧な相槌の間に彼はゆっくりとそれを喋った。そして「家についたら起こしますから寝ておいてください」とおじさんは言った。

私は「電車で帰るよりも、タクシーで帰ることの利点もあるな」と思いながら、眠りに落ちていった。

眠るよりも、おじさんの暖かい言葉の方が元気になるよ、と思いながら。

お腹が痛くなる呪われたスーツ

なぜこのスーツを着る時だけ、お腹が痛くなるんだろう、と思っていた。

4回目にお腹が痛くなった時は、思わず「このスーツは呪われているんだろうか」とさえも思った。こういう時、どこにお祓いにいけばいいんだろう?と検索さえもした(お寺がいくつか見つかった)。

でも、僕はこのスーツしかないから、スーツが必要な時は、このスーツを着るしかなかった。ストライプのグレーのスーツ。

前に着ていたスーツのパンツが破れて買い直したスーツだった。駅前の量販店で上下セットで29800円。太ることを考えて、少し大きめのサイズにした。もうパンツも破けないように。

だから、中古でもないし、呪われているとは考えずらかった。

もしかすると、腰回りがタイトでお腹が締め付けられて痛くなっているのかも、と思った。でも、そんなことはない。緩めのサイズがかったから。ベルトをしないとずれ落ちるほどだ。

5回目にお腹が痛くなった時は、とうとうもらしてしまった。このスーツのせいで。

僕は、そのスーツを捨てることにした。汚れてしまったということもあるし、何よりこのスーツだとお腹が痛くなるからだ。

そして、今度は隣の駅の違う量販店でスーツを買った。同じく3万円だった。

でも、そのスーツを着てもお腹が痛くなった。

「なんなんだ!」と僕はトイレで憤る。ふんばりながら憤る。

「早くトイレを済まさないと社長報告に遅れてしまう」

「あ」と気づいた。もしかすると、お腹が痛くなるのは、社長報告会がある時だけだ。そして、報告会がある時だけ僕はスーツを着る。

そう考えると、スーツを着ている時にお腹が痛くなるんじゃなくて、スーツが必要な社長報告のせいでお腹が痛くなるんだ。きっとストレスかなにかで。

あー、理由がわかってすっきりした。トイレだけにスッキリした。でも、お腹が痛くなる問題は解決していないけれど。

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以下の記事から発想を得ました

 

anond.hatelabo.jp