言葉の響きの魅力
パスタの種類で「パッパルデッレ」というものがある。リボン状のパスタで、ラグーソースなどによく使われる。
この「パッパルデッレ」の響きは、なんとも腹の臓器に響いてくるサンバのリズムを伴う響きである。つまり、一度、耳にすると誰しももう一度つぶやかざるを得ない。「パッパルデッレ」。いわば、感謝祭の最終日にアルコールと睡眠不足でハイになったラティーノの雄叫びさえも彷彿する。ゆえに、僕はパッパルデッレがメニューに乗っていると頼まざるを得ない。
このように時に言葉の魅力は魔力だ。先輩はがロアチアの地名を「まろやか」と表現していたのを思い出す。たとえば、リュブリャナやドブロブニク、マカルスカ、ヴィロヴィティツァなどなど。これらの地名を聞けば、アドリア海の悠久なる時の流れが眼前に浮かんできそうである。これがシベリアやオホーツクという響きだったらきっと日本人はこのクロアチアによくわからない郷愁を抱かなかったのではないか。
そのようなことを考えていると、頭に思い浮かぶ命題の1つが「世の中でもっとも響きのかっこ良い言葉はなんだろう」というものである。
一説によると「ガンダム」のような濁音が入っている言葉に男は興奮するという話を聞く。あるいはマ行には艶っぽさを感じるとも言う。女性の名前でマ行の名前が非常に多いのはこれゆえではないか(マミ、マサコ、ミカ、ミチコ、自分の友だちの名前を思い浮かべれば良い)。
しかし、やっぱりもっともかっこいい響きの言葉は、間違いなく「ぶんぶく茶釜」だろう。このリズム、濁音、反復、破擦音、全てが美しい。何度かぶんぶく茶釜と繰り返し言い続けてほしい。そこに静寂からリズムがうまれ、そして、草木が芽吹き、小鳥は歌い出すだろう。大地を揺るがす原始の太鼓のリズムがそこにはある。