寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

行き急ぐ永沢

永沢は、待つのが苦手からもわかるように、せっかちだった。たとえば、エスカレータのボタンは常にに連打した。

「そんなに何度も押しても変わらないよ」というと、「それはわかってる。俺の気持ちを落ち着かせているために押してるんだ」とはた迷惑な人だった。さすがに知らない人が乗っている時はしなかったが。

テレビ番組もすべて録画し、再生する時は二倍速で見ていた。CMもスキップしていた。「1時間のテレビなんて重要な部分なんて20分しかない。そこだけを見ればいいんだ」といっていた。さすがに、映画を見る時は「ゆっくり味わいたいから早送りはやめて」と頼んだけれど。

一度、一緒に部屋で過ごしている時に、コンビニに行く用事ができた。たしか電球が切れた、とかだったと思う。その時に永沢が買いに行ってくれたのだが、窓から彼の買い出しを眺めていると、コンビニまで走る彼の姿が見えた。コンビニまでの移動時間でさえも、歩きたくないということなんだろう。

「どうしてそんなに急ぐの?」とある時に聞いたことがある。その時の彼の回答はこうだった。「確率的には、あと60年もすれば俺たちは死んでいる。あと60年しかないのに、どうして急がないんだ」と。

彼が自分自身を平均寿命まで生きれると仮定をおいていることに、多少の驚きを感じたが、「あと52万時間しかないね」と答えておいた。「そうだ。本を1冊読むのに1時間かかるとしても52万冊しか読めない」と永沢は言う。お風呂に入る時間も確保してほしいな、と思いながら、ベッドで私はまどろんだ。