眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

寝台特急カシオペアの思い出

ミチコは、カシオペアに乗りたいと言った。カシオペアとは上野と札幌を繋ぐ寝台特急だ。

「席を押さえるから一緒に行こうよ」と誘ったら、ミチコは「いいよ」と軽く返事をしてくれた。

ミチコとは、まだキスまでの仲で、付き合うはおろか、彼女が何を考えているかも分かっていなかった僕は必死だった。キスでさえも酔った勢いで、1度きりで、それ以降は拒まれた。そのため、寝台特急と聞いて、当然、下心を持ちながら誘ったのだけれど、まさかOKしてくれるとは思わず、僕は欣喜雀躍よろこんだ。

せっかく行くならスイートだろう、と一室しかないスイートを予約した。大学生にとって2人で10万円の出費はなかなか厳しいが、アルバイトでなんとか工面した。

当日の待ち合わせは人生でもっとも緊張した待ち合わせだった。本当に来るのかドキドキしながら、同時に、その夜に訪れる一緒の時間を楽しみにしながら。

彼女はきてくれた。カシオペアを楽しんだ。お酒を一緒に飲んで、語った。21時ごろに仙台につき、その頃には2人とも、いい感じでお酒も入っていた。その頃合いで僕は、胸の内を伝えた。

貴女が好きだ、と。

ミチコの答えは、「私は男性が怖いの」というものだった。話はこうだ。

ミチコの美貌は高校生の時から有名で、一時期は高校1とも呼ばれ、わざわざミチコを見に、他のクラスから生徒が来るほどだった。彼女もそれにまんざらでなく、告白してくる男を断りながらもデートを重ね、人生を謳歌していた。

そんなミチコを快く思わなかった3年生のある女性は、知り合いの男性をつかい、ミチコを襲わさせた。道での待ち伏せだ。その時はミチコは逃げ出したが、ずっと逃げていくわけにはいかない。今までミチコに思いを寄せていた男性の中で、一番、「やんちゃ」な男性にこのことを相談した。そして、彼は、3年生の女性と話を付け、ミチコは助かった。話がここで終わればきれいだったのだが、結局のところ、ミチコは、ミチコを助けてくれた男性に襲われた。「みなで飲もう」と呼ばれ、助けてもらった負い目もあるミチコは彼の家にいき、最初は何人かがいたが、最後は2人になり襲われた。最後までされなかったものの暴力を振るわれ、何より、頼っていた男性に裏切られていたことにショックを受けた。それ以来、ミチコは、男性を恐れている、という話だった。

それを聞いて、僕はカシオペアの神話を思い出した。ある女性カシオペアは美貌が自慢だった。子供の美貌はさらに自慢だった。「ネレーイス(ポセイドンの孫娘)たちよりも美しい」と自慢しているのをポセイドンの耳に入り、ポセイドンは、カシオペアに住む町にお化け鯨を送り、町を恐怖に陥れた。そのお化け鯨を帰らせるには、カシオペアの子供を差し出さなければ、いけない、というものだった。

カシオペアも美貌のために悲劇をうんでしまった。ミチコの美貌ゆえの悲劇の話を聞いて、そんなカシオペアのことを思い出す。

ただ、神話はもう終わった話だ。ミチコと僕の関係は神話ではない。まだ終わってもいない。彼女に受けいられるように、時間をかけていこう、と僕はカシオペアから見る北極星を見ながらそう心に誓った。

北極星を見つけるための目印として使われるカシオペア、この電車が僕たちの未来を指し示す何かでありますように、と。

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今日は、以下の記事からヒントを得て書きました。なお、今回はある程度の実話(伝聞)をもとにしています。

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