寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

エイプリルフール

中学校時代に好きだった子と偶然出会った。東銀座の仕事帰りに。4月になったばかりということで気分もよく「一杯飲んでいかない」と声をかけた。もう10年以上ぶりになる相手にも関わらず、あるいは、15年以上ぶりだからこそ思わず誘ってしまっていた。

相手も「いいね。行こう」と快諾をする。東銀座にある子羊がうまいビストロに入る。週末にも関わらず、席は空いている店だ。なんせ入り口がわかりにくい。

中学校の制服の彼女と今のパンツスーツの彼女ではさすがに雰囲気は違うけれど、それでも、30分も話をすれば、あの頃の距離感に戻る。

思い出話は尊い。そして、贅沢だ。昔は思い出話なんて老人の特権だと思っていた。思い出話は生産性もなく、そんな話をする人は愚鈍だと思っていた。でも、30を超えると、いかに思い出話を飲む酒がうまいか気づく。いかにその時間が贅沢で芳醇な空気を生み出すかわかる。

あの頃、好きだったんだ、というセリフは素直にでた。それは、きっとはぐらかされても「今日は4月1日って知ってた?」という言い逃れができたからかもしれない。

ただ、彼女の「私も好きだったって知っていた?」というセリフを聞いて、今日が4月1日じゃなかったならば、と思うのだけれど。