寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

ダッチオーブン焼き林檎アイスクリーム占い

渋谷と表参道の間の渋谷二丁目近くにあるそのビストロは、駅から少し歩くにもかかわらずいつも混んでいた。

おそらく食べログ評価の高さによるものだろう。すなわち、雰囲気もよく、味もよく、値段も手頃だ。特に女性が多く、平日の21時だというのに、女性で満席だった。

名物は、ダッチオーブン焼き林檎アイスクリームというもので、その名の通り、オーブンで焼いたリンゴアイスクリームだ。リンゴの甘い香りが店内に漂い、ついそのデザートを頼みたくなる。この店が禁煙なのは、このリンゴの甘さを届けるためかもしれない。

同席した友人が言う。「昔、りんごパイで恋人と別れたことがある」。小説の冒頭にでもなりそうな色気のあるセリフだ。「どうして?」と女性が聞く。「リンゴパイって、固い生地と柔らかい生地があるんだよ。彼女は柔らかいのが好きで、僕は固いのが好きで。スーパーでリンゴを買おうとした段階でその喧嘩になり、彼女はあまりに怒ってリンゴを投げつけてきたんだ。その弁償だけで1万円を超えた」。どこまで誇張が入っているかわからないが、そのリンゴを投げる彼女の仕草のものまねや、「リンゴのようなオッパイの彼女」の謎の形容詞がこなれていて、おそらく彼の鉄板ネタなんだな、と思う。

ちょうど隣の席では、タイ人のモデルのような顔の整った女性がパイを食べていて。この和の名前のビストロというアンマッチな組み合わせの店の雰囲気に、オリエンタルな様相を組み合わせを見ているだけでなんだか気分は高揚し。友人たちもビール、ワイン、カクテル、梅酒と好きなものを飲み続け。食事後にりんごパイを頼むと、もう品切れで。このりんごパイを食べるためだけにまた来たいなと考えるけれど、実際はもう来ないとも分かっていて。もしかしたら来るかもしれないけれど、それにしては駅から距離が遠いし、これほど歩くほどにはリンゴパイの魅力は強くない。

ただ、週末に彼女に合ったら、りんごパイは固い方が好きか、柔らかい方が好きかは聞いてみようと思った。その前に、彼女が「りんごパイ?アップルパイじゃなくて?」と言ってくれたら、もっと彼女を好きになりそうなんだけど、どうなんだろうな。