寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

タワマンから見下ろす東京タワーより美しいもの

田舎者にとって東京タワーは憧れだった。上京した時に、東京タワーの麓に住んだのは、その思いがあったからかもしれない。東麻布は落ち着いた町で結局6年も住んだ。週に一度は芝公園の麓をランニングするのが習慣で、東京タワーを見上げる人たちを代わりながら走ったものだ。

それから10年たって、いま38階から東京を眺める。あの頃は、東京にでてきただけで「やったった」感があったけれど、いまは、自分の自負としてこの高さからの東京タワーを見つける。ドヤ感と、そして、それに伴う焦りを秘めたまま、その東京タワーを週末ごとに見つめる。

0時に消えない日の東京タワーをみた時は幸せな気分になる。たまに彼女が「今日は何色だった?」と聞いてくるのも心地よかった。

ある日、彼女がベランダからその東京タワーを中心に据えた夜景を見て「きれいね」と言う。「この夜景は、女性を口説くのに後押ししてくれるよ」というと「口説いてみて」という。

「この夜景、きれいでしょ」

「そうね」

「でも貴女の方がずっときれいだよ」

苦笑いで聞く彼女。陳腐でベタなセリフ。でも言ってから気づく。実際、僕は、この綺麗な夜景を見るよりも、貴女の横顔を見ていたくて。こんなセリフってドラマの浮ついた歯がゆいセリフだと思ったけれど、実際、この夜景よりも美しい横顔というのは、存在していたんだ、と気づく。

東京タワーを見上げる大学時代を過ごし、東京タワーを部屋から眺める年になり、そして、東京タワーを見つめる女性を見つける。人が聞くと馬鹿らしくて失笑されるだろうけれど、それでも、結局のところ、僕らは東京タワーを愛でるにかぎらず、東京タワーをめぐる物語を紡ぎ続けるのだ。