寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

空と鼻歌とスキップと

「見て、今日の空。気持ちいいね」

と、LINEが届く。「空のことを話ができる人は心が軽やかな人だ」という話を聞いたことがある。心に重たいもの、悩みや苦しみを持っていると、人はうつむき、空を見上げることができない。ゆえに、空の話をできる人は上をむいている人、すなわち、心が軽い人だ、という論理だ。

それが本当かどうか知らないけれど、僕自身、辛いときは窓の外を見上げていなかったような気がする。気分がいい時だけ窓を明けて空からの太陽と初夏の風を体で感じることができた。心が病んでいた時は、太陽が眩しすぎて動機さえした。まるでドラキュラの気分だ。

彼女は空のLINEを送る。そして、鼻歌を歌う。通信キャリアのCMで使われている「うみのこえ」という曲を鼻歌で歌いながら料理をする。「口笛を吹ける人は幸せな人だ」というようなフレーズを聞いたことがあるけれど、鼻歌もきっと同じだろう。鼻歌はこころが軽やかな人にこそ似合う。

彼女は空のLINEを送り、鼻歌を歌う。そしてスキップさえもする。桜の散った川の辺りを、彼女は僕の手を持って「ほらスキップできる?」とスキップをさせる。僕は足がこんがらがりながらも彼女についていく。彼女のスキップは軽やかだ。

でも僕は知っている。彼女は彼女なりの地獄を抱えていることを。それでも、週末は別の自分をひねり出し、鼻歌を歌い、空を見て、スキップをする。それが、まるで悪魔を追い払うような儀式のように。僕は、彼女にできるだけ笑顔になってほしくて、下手なスキップをして、音痴な鼻声を歌い、そして、空の写真を彼女に送る。