寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

嘘のつけない国

その国では、人は嘘をつくことができなかった。嘘をつこうとすると声がでなくなった。本当のことしか言えなかった。

ゆえに政治家は黙秘を徹底的に行使した。冤罪はかなり減った。嘘発見器は売上がたたなかった。

会社では、嘘にならないグレーの表現方法が匠の領域まで消化された。「仰ることは否定しませんが、しかし同時に必ずしもそれは肯定するという意味にはなっていないといなさんは思っていると私は思っています」といった歪曲な表現で、嘘を上手に避けながら触れられたいところには触れないという技術が発展した。会議はやたら長時間になり、修飾語が多様され、婉曲表現が愛用された。

浮気も世の中から大きく減った「浮気しているでしょ」という質問に、黙秘で応えることができない。それは、認めることになるからだ。頑張って歪曲な表現を使っても、結局は「浮気しているでしょ」の質問を延々と繰り返されると自白に至った。

もはや世界は「疑惑を抱かれないこと」が重要になった。つまり質問された時点で負けになる。同時に、その結果、質問の力が増し、質問というものに規制が必要になった。都道府県によっては条例で、根拠がないのに質問することは規制された。たとえば、「浮気しているでしょ」と聞かれた場合は、そう思った根拠をあわせて言わないと相手に回答する義務はなくなることになった。

ゆえに、根拠を見つける産業が発達し、探偵の市場が広がった。

そして、結婚式で「健やかなる時も、病める時も、お互いに愛し、慰め、助け、命のある限り誠実であることを神に誓いますか?」という質問も行なわれないことになった。あまりにも多くの人が回答ができないようになったからだ。

しかし、その質問をしている地方もある。その国では、結婚後の離婚はかなり低いそうだ。そもそも離婚する人は上記の質問を回答する時点で破局に向かう。ゆえに結婚する人たちは絆が固い。

僕は、どちらの方が良いのかはわからない。これは嘘ではない。