寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

あなたの打鍵は他の人には異なり響く

時計の時間が過ぎていた。この時計は自動巻きなので、1日付けていないと時間が遅れ始める。普段より時間が2時間30分くらいずれていた。

でも、忙しかったのでそれを調整しないまま、それを付けていた。時間は「この見えている時間より2時間30分足した時間が正解だ」と計算しながら。

1日もたつとその計算に慣れてしまい、そのままにしておいた。週末はこの時計をつけることが少ないので、また週末に時間が狂ってしまうかもしれないからだ。いちいち、毎回治すよりも、毎回「今回は何分ずれている」と考えて計算した方が楽ちんかもしれない、と思い、そのままにしておいた。

ただ、ある日、彼女が僕の時間を見て「時計狂ってるよ」と言う。僕にとっては狂っていないのだけれど、まぁ彼女の言い分は楽しい。ただ、僕はその狂っている時計を正常化する「2時間30分を足す」という魔法を持っているから、その狂っているものを正しく見ることができる。

でもそういうことって、世の中にはたまにあるよな、と思う。

暗号の公開鍵と秘密鍵だって、誰でも見えているものは同じなのに秘密鍵を持っている人だけがその内容が見えてしまう。

何気ない物音も、もしかしたらモールス信号かもしれない。じっと壁を見ているあのひとは、VRのメガネでその壁に別の世界を見ているのかもしれない。人によってはパスワードを入力する時だけローマ字入力からかな入力にするらしい。それによって外から入力箇所を見られていて、打っているキーを見られていても入力している数字は異なったりする

そういえば、彼女がお風呂場で歌う鼻歌だってそういうものかもしれない。彼女は、その鼻歌が音痴で聞かれたくないそうだけれど、僕にとってはとても愛らしいメロディだ

。僕はそのメロディに歌以上の意味を見出しているのだ