眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

悪いことはしないこと

ある男がいた。名前はヒサシといった。ヒサシは既婚者だったが、女好きでひどい男だった。そのため、その日も、出会い系サイトで、女性を探していた。出会い系サイトの名前はPairsと言った。有料サイトだが、多くの男女が利用していた。

ヒサシは、サイトで気に入った女性をチェックしていった。すると、その中の1人から返信が来た。そのメールを見て、ヒサシは血の気が引いた。

 

- あれ。私、あなたのことしってるかも

ヒサシは考えた。やばい。どういう繋がりだ。この顔に見覚えはない。いや、あるかもしれないが、ピンとこない。慌ててプロフィールを見る。プロフィールを見ると、嫁の出身県と一緒だった。年代も近い。まさか嫁の知り合いではなかろうな。とりあえず認めないにこしたことはない。

- あら、そうですか。申し訳ないですが、僕は存じ上げないかも。人違いではないですか。

- いや、やっぱり。ヒサシさんですよね

名前まで当てられた。間違いなくこの人は俺のことを知っている。Facebookで嫁の友達を探す。その中にこの子はいないか。サチという子だ。いまはあまりに情報の非対称が大きい。僕もこの子を知らなければ。敵を知り、己を知れば百戦危うからずと孫氏も言っている。

しかし、Facebookにその子はいなかった。あるいは、Facebookでは違う写真を使っているのかもしれない。サチは偽名かもしれない。困った。

- いや、ヒサシではないですよ。ヒサヨシです。

俺は言い張る。ここは認めたら負けだ。知らぬ存ぜぬで貫き通せ。俺はヒサヨシだ!!

- 嘘だ。この写真、Facebookで見ましたよ

なんと。やばい。写真は動かぬ証拠だ。「他の人の写真を使ってるんですよ」と言おうか。さすがに怪しいな。そうだ。一度会って誤魔化そう。あえばなんとかなる。万が一嫁の知り合いだっても、情に訴えかけよう。「間違いだ」と。

- いや、でも僕はヒサシではないです。一度、会って話しませんか。勘違いだと思うので。

- 嫌です。マリコに言いますよ

嫁の名前が出てきた。完全にアウトだ。どうすればいい。どうすれば。先に、嫁に「研究でPairs使っててさ」と言い訳しておくか。いや、怪しすぎるだろう。何の研究だ。謝って、許してもらうか。あるいは知らぬ存ぜぬで通すか。

- マリコって誰ですか。ちょっとへんな名前ばかりでるので、メールは辞めさせてもらいますね

よし。あとは、この子が嫁にチクらないことを願うだけだ。神様!

 

〜数日後〜

- あなたPairsって知ってる?

唐突の嫁からの発言。しかし、想定はしていたことだ

- しらないよ。何それ?

ヒサシは、無言の嫁の顔を見る。とぼける演技はここ数日でさんざんしてきた。シュミレーション通りだ。声は少し上ずったけれど。嫁は、言葉の真偽を確かめるように僕の目をじっとみる。僕はアマガエルが空から振ってきた一滴を「雨かな」と感じるような顔で、嫁の目を見続ける。目をそらすな。そらすと負けだ。

- そう

そして、嫁は、目線を外した。最後に一言添えて

- 今月のクレジットカードの明細は見せてね