寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

振り肉

2020年は、焼き肉の進化系として「ふり肉」という料理が空前絶後の人気を博していた。どういう料理かというと、そのままだが、生の肉を振ることによって、「いい感じ」にして、食べるという料理である。

振ることによって新鮮な肉に酸素をまぶし、熟成肉ならぬ、風向肉として重宝された。その風はよりきれいな酸素であればあるほど肉がうまいとされた。排気ガスなどが混じった都会の空気で振るよりも、田舎の自然の空気で振るのがうまいのだ。

そのため、軽井沢や北海道に、ふり肉をするために人々は集まった。また、振る時に肉をつまむ箸のマナーや箸の種類も改善された。さらには、ふる速度までも重要となり、もはや振り肉は一種のアートの様相さえも魅せた。あまりにも早く振る人は、肉汁を撒き散らしテーブルを大変なことにさせるのだが、それもそれでまた妙味とされた。

要は世の中は退屈なのだ。

さらに、そのふり肉は進化を遂げ、「より長い間、酸素に当たった方がうまい」という考え方が生まれた。そのため、自分で高く肉を放り上げ、そのまま口でキャッチするというマシュマロ投げのような食べ方まで始まり、屋外レストランは大人気となった。さらには、コンビでお互いの口に肉を投げ合うペア振り肉はカップルに重宝された。もっとも、相手の顔にぶつけるカップルが後を絶たずで、あまりにも恋愛破綻リスクが大きいということで、すぐに下火になってしまったが。究極はスカイダイビングふり肉で、ビルの上や飛行機の上から落とした肉を口で食べる人たちも出てきた。そこまでくるともはや肉は、単なる冷たい何か、となっており、味の問題ではなくなってきたが、人はまた、その冷えた肉を頼んだ。

要は人々は退屈しているのだ。

大人しく焼き肉を食べれることの時代をみなは懐かしがった。しかし、肉は振るもの、というカルチャーは不可逆であり、今後も人は肉を振りながら食べるだろう。あの焼き肉の脂身を懐かしみながら。