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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

骨董通りにて

初夏のきつい日差しの中で、その人はまるで重力がないのではないかと思えるほど、軽やかに歩いていた。木々の間を飛び交うリスのように、その人は街路樹が写した遊歩道の陰と陰の合間を淀むこと無くあるきつづけた。

綿のパンツに白いシャツ。素足に茶色の革靴にサングラス。そして、きれいに整えられた短髪。まるで雑誌の海岸のロケのような出で立ちでその人は表参道の骨董通りを歩いた。

私は「ああ、ここが青山なんだ」と思い、同時に「歩くだけで空気を変える人」という存在を目の当たりにし、思わず歩みを止めた。まるで海の匂いさえもするような存在感だった。

何かの本でこんな話を読んだことがある。「ニューヨークである清掃員の男が歩いていた。その男の背筋がきれいに伸びていて、あまりにも歩き方がきれいだったので、ある会社の社長がその男を呼び止めた。そして、採用した。その男はとても出世した」といったような話だ。もしかしたら、その男も、このような空気感を持っていたのかもしれない。かっこいいとか、タイプ、とかそういうものではない。たとえば任侠映画のヤクザの迫力やハリウッド映画のヒロインの登場シーンのように、その場の空気の質が変わるほどの磁力をもった人のことなのだ。

1つ1つの所作が人を魅了してしまうような。指先までも自分の支配下において、それがまるで映画の1シーンでズームされているかの如く、全身の振る舞いをコントロールする。筋肉の付き方からして違うのかもしれない。テレビに映る人は「人に見られることを意識するので、顔つきが変わる」というような話を聞いたこともあるけれど、彼はきっと自分をどこかのカメラの前に晒した人生を生きているのかもしれない。

負けない、と骨董通りの空気を吸いながら私は面接に向かう。彼の歩く姿を脳裏の思い出し、少し真似をする。背筋を伸ばして、歩幅を広げて。

夏までに春がくると良いのだけど思いながら私はストロークを大きくする。

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以下の記事から発想をえました。

note.mu