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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

YES/NOの夜

「もう一杯飲んでいい?」と女が言う。

表参道と渋谷の間にあるバー。青山学院の横のバー。女性のバーテンダーが怜悧にシェイカーを振る。その影が薄暗い店内の影を揺らす。

終電がなくなるか、なくならないかの際どい時間。その時間帯での、この女性の「もう一杯飲んでいい?」は大方、「今日、泊まっていっていい?」という意味合いになることが多い。

ただ、2人の関係性はわからない。カップルにしては距離が遠い。しかし、友達関係にしては、バーの色気が濃い。そしてスカートの女性は短い。他の客もカップルばかりで、この店に友達同士で来るのは、野暮だろう。

2人は既に身体の関係があるか、それともこれからか。いずれにせよ、女性は男性の返答を待たずに、一杯を頼む。ただ、その頼んだドリンクはハイボールで。2軒目か3軒目のこの店での男女間で頼む一杯にしては、いささか違和感を感じる。よっぽどハイボールが好きなのか、それとも、男性への牽制球なのか。

方や隣の席では、女性が「そろそろ終電が」という。

男性が「もう一杯飲もうよ」と問う。それ以外の選択肢がないトークスクリプトだ。もう一杯飲むかどうかの「YES/NO」で決まる今夜の思い出。「もう一軒いかない?」「うちで飲み直さない?」「まだ時間大丈夫だよね」と数多のYES/NOクエッションが飛び交う週末の夜。

そんなことを考えていると私の眼前の女性が言う。

「ねえ、何を考えているの」

「貴女が次に何を飲むと似合うか考えていたんだ」

眼前の女性は、口角を少し上げ、グラスに残ったブラッディメアリーを飲み干した。

「なにが似合うと思う?」

「YES/NO」ではなく、「Which」で始まる夜の二部もあるのかもしれない。