寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

不確実な朝

朝、7時30分に1つ目の目覚ましがなる。そして、35分に2回目の目覚ましがなる。エイジは、そのタイミングでベッドから出る。その前の夜に何時にベッドに入ろうとも、起きる時間は同じにしている。起きる時間がずれるとなんだか起きれないのだ。もちろん寝る時間も一定にする努力はしているのだけど、人生はそんなにシンプルなものでもない。

そして、起きてから、エイジはキッチンに向かい冷蔵庫の扉をあけエビアンを2口ほど飲む。冷たい水が身体に染み込んでいくのがわかる。特に夏場はそうだ。そして、意識が少し冷めていくのがわかる。そのまま冷凍庫をあけて冷凍したベーグルを取り出し、パンナイフでベーグルを半分に切り、レンジで解凍する。このパンナイフは少し高級なもので、エイジの好きな一品だ。切れ味はそこまで変わらないにしても、かっこよさが優れている。

その間に水で顔を洗う。その後に解凍したベーグルを今度はトーストにセットする。今度は5分くらいかかる。その間にエイジはイタリアのムースでひげを剃り、資生堂のワックスで髪の毛をセットする。

その頃にはトーストが焼ける音がする。そして、皿を取り出しベーグルを皿にのせる。そして、バターナイフでチーズを塗る。そして、ネスカフェの珈琲を入れながら、ベーグルを食べる。合わせて、テレビでは録画していたモーニングサテライトを流す。

3分ほどで食べ終えて、前日に出していたワイシャツとパンツを身につける。時計を身に着け、充電していた携帯を鞄に入れ、家を出る。

これがエイジが5年以上続けている朝の儀式だ。ほぼ代わりはない。雨の日に傘の荷物が増えるくらいだ。たまに会議が定時より始まると、起きる時間が変わるので非常にストレスだ。そのため、普段から30分前には会社に行くようにしている。そのため、30分定時より早いミーティングが入っても、その時間で吸収できる。週末もこの時間で動いている。朝の苦手なエイジが生み出した「朝をこなすコツ」である。エイジはこれを「自動化の朝」と呼んでいる。自動化さえしてしまえば「眠たい」「辛い」ということも低減できる。

ただし、このルーティンが大きく変わる時がある。女性が泊まりにきた翌朝だ。エイジは、朝の習慣を崩したくないため、できる限り、女性には前日に帰ってもらいたいと思っている。しかし、人によっては、終電もなく泊まっていくことになる。その場合も秀次は1人で朝、起きて、自分の朝を迎えようとする。だいたいの女性はその空気をよんで、邪魔をしない。ただし、女性の方が化粧の時間がかかるので、その分、エイジは普段よりもモーニングサテライトをちゃんと見て、出社する時間を遅らせることになるが。

しかし、1人、そのエイジのいつもと同じ日常を壊した女性がいた。朝、エイジが焼いているベーグルを見て、「私が料理する」と冷蔵庫に入っていた卵で朝食を作ってしまった。エイジは困惑した。普段の朝と違う朝が始まる。ストレスフルだった。しかし、それが2回目、3回目となると「今度は、どのような朝食を作ってくれるのだろう」と考えるようになった。今までいつもと同じ繰り返しの朝だったものが、不確実性の朝となった。それがストレスだったのに、いつしか不確実性を楽しめるようになった。

そして、エイジは気づく。朝の苦痛をのりこえるためには「自動化する」ことによって苦痛を忘れようとした。しかし、ときには「不確実な朝」の方がよっぽど苦痛を忘れさせてくれることに。

これだけでおわれば美談で終わりである。しかし、後日談としてはそうではなかった。

エイジはこの女性に恋に落ち、結婚をした。そして、不確実な朝が毎日訪れた。そうすると、改めてエイジにとっては、その朝が苦痛となった。不確実な朝が確実に訪れるということ自体は、エイジが想像したよりもストレスを伴うことだった。結婚前に、その朝が心地よかった理由は、「普段の自動化された朝にたまに入る不確実な朝」だったからなのだ。その適度なバランスによってこそ、不確実な朝は価値を発揮した。

結果、エイジは離婚を迎えることとなった。そして、また改めて自動化された朝がやってきた。不確実な朝は、もう来ない。