眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

水の音

奥入瀬渓谷に添ってはしる歩道から渓谷の中に入る。数メートルの高さの滝があり、清らかな水が流れる。初夏の緑のコントラストと静かにしっかりと流れる水の組み合わせは、きっと自然界が生み出した比類なき調和の美しさを見せつける。

そこで、私は水の音を聞く。川のせせらぎと岩のぶつかり合う気泡の音を聞いた。少し高い位置から流れた水が重力に引きづられ低い位置に流れ、水面に水同士がぶつかり合う音を聞いた。それはベースとギターのように流れ、ドラムとして滝の音を聞く。リズミカルに流れる川の水の音と激しく流れる滝の音のシンフォニーはまさに水の音のオーケストラだった。

できれば、ここに鳥の音色がさらに加わって欲しいと考えた。また、滝の音が強すぎるので、もう少し水流は弱い方が全体の調和を取ることができるように思った。私は、自分が望む水の音のコンサートが最高の組み合わせで聞ける場所を探した。渓谷の少し場所を変えるだけで、水の音は音色を変えた。注意して聞かないと聞けない水の音。しかし、その水の音を聞き分けられるよになった時に、その複雑な音色の混じり合いは、もはやクラシック・コンサートを想起させるほどの音色だと気づくだろう。

私は多くの水の音を聞いてきた。四万十川の力強い音や福島の銚子ヶ滝の洗練された音、仁淀川の開放された音、高千穂峡のいくたの水の反響音。どれも素晴らしいものだった。

しかし、最近になってさらにその水の音の多重奏に深みを与える音を発見した。それは、その水を見て発せられる人の声だ。「きれい」「わーすごい」「美しい」といった感嘆の声。時にそれが水の音の音色の厚みをうみ、音圧を際立たせる。

あなたが一度、きれいな水をみかけた時には、この音色に耳を澄ませて欲しい。すると、あなたはきっと賞賛の声をあげたくなるだろう。それがきっとその水の音に足りてない音なのだ。