寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

八百屋での収穫

ミドリが初めてしたバイトというものは、コンビニだった。中学生の頃だ。もちろん法律で禁止されているので公のバイトではない。

親戚の叔父がやっている八百屋にお手伝いという形で潜り込んだのだ。ミドリはレジをした。時に野菜を並べることもあったけれど、基本はレジだった。

ただ、八百屋のレジはコンビニとは異なる大変さがある。ミドリが働いた八百屋の野菜はバーコードが貼られていない。すなわち、値段を全て頭に入れておく必要があるのだ。しかも、野菜は日によって値段が変わる。ゆえに、出勤ごとに野菜の値段を頭に入れるのが常だった。

そして、それに伴う問題が、計算である。バーコードがあればレジが自動で計算してくれる。しかしバーコードがないと、頭で計算する必要があるのだ。もちろん電卓を使ってもいいが、八百屋にそんな余裕はない。ぱぱっと暗算が求められた。

もちろん間違うこともあったが、あまり客も気にしていないようだ。

大人になってミドリは思い返す。あの頃のバイトの経験は役に立った。スーパーにいった時に野菜が高いか低いかがわかるようになった。キャベツは100円を切らない、ということも知っている。もやしがとても安いこともしっている。

でも、それよりも八百屋で働いて得たことは、野菜を好きになったことだ。それまでミドリは別に野菜は好きというほどでもなかった。何よりミドリは中学生だったのだ。けれど、毎日、野菜を売っているうちに同じ野菜でも違いがあることをしった。品質や肌触りや熟し方が違うことをしった。茄子1つ1つの表情が違うのだ。また、売れる野菜と売れない野菜もしった。それによって売れない野菜が売れると嬉しくなった。そういう過程によって、ミドリは野菜を好きになっていった。人は、物事を知ると好きになるのだ。同じ歌を何度も聞いていると最初はどうも思わなかった歌が、突然、良い歌に聞こえてくるようになる。あるいは、同じ絵に見えていたものが違いがわかると、その絵が好きになってくる。人は違いを知ることで愛を持つのだ。それを知れたことがミドリの八百屋での一番の収穫だった。