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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

お酒の失敗談を話すバー

「このバーでは、自分のお酒の失敗談を話さないといけないんだ」

- へー。なにそれ、面白いね。

「まぁ、このバーが、というわけではないけどね。僕がこの店に行くと隣になった人によく聞くネタなの」

都心から少し外れた各駅停車が止まる駅。その商店街にある暗いバーに男女が入る。女は男の腕に腕を絡ませながら入る。

「どもー」

男は何度か来たことがあるらしく、店員に挨拶をする。進められるままにカウンターに座る2人。カウンターには既に5人の客がいる。

男はスコッチを頼み、女はファジーネーブルを頼む。他愛もない会話と共にグラスが空き、男はもう一杯同じものを頼み、女は赤ワインを頼む。

「さて、お酒の失敗談を話しようか」

- いいよー

顔を赤らめながら女がこたえる。暗い室内を照らす照明が女のイヤリングを照らす。カウンターにおかれた指先には真っ白なネイルが光っている。

「じゃあ僕から。僕は21歳くらいの頃かなー。知ってる通り、僕はお酒はそんなに強くないんだけど、その頃はいまよりもずっと弱くて。

大学のサークルの飲み会か何かで飲まされて。ゲームをやったんだよ。1ニョッキ2ニョッキとかの。それで負けて。その日は、テニス大会の後で、なんだかみんなもテンションがあがっていて、どんどんお酒を飲んでしまった。

そして、0時も過ぎて解散、となった頃には、僕はふらふらで。ただ、その時にサークルで好きな子がいて、その子に絡んじゃったんだよね。酔いにまかせて。『この後、二人でのみにいこう』とか言って。そうしたら、女の子も『いいよ』と言うんだよ。まじかよ、と。それはテンションあがって、サークルの他のメンバーが二次会だか三次会だかの話をしている時にこっそり抜け出して。当時はお金もなかったからタクシーに乗るのも躊躇したんだけど、酔っ払って気分が大きくなってるから、タクシーに乗ったんだよ。そして、彼女も乗ってきた。

そしてうちを目指してタクシーは進んだわけ。車中で女の子とは、飲み会の話をしてたね。あいつよく飲むねーとか。色っぽい会話はせず。ただ、頭の片隅では、いろんなことを考えているだよ。部屋に入ったらどうしよう。コンドームあったかな、とか。

でも、結局のところ、うまくはいかなかった。タクシーで酔っちゃって吐いちゃったんだよ。しかも車内で。女の子の服も汚しちゃった。それで、テンパって、女の子には別のタクシーで家に帰ってもらって、僕はタクシーに謝り倒した。

そんな思い出」

- わー悲惨。女の子とはその後どうなったの?

「どうにもならなかったよ。最初に失敗しちゃうと自分が怖気づいちゃって」

- 残念だったねー。

女が男の膝に白いネイルのついた手を起きながらつぶやく。

「ミチの思い出は?」

- 私かー。私はお酒強いから、あんまり失敗しないんだよね。ただ、私も大学の頃に痛い思いではあるかも。

「どんなの?」

- 私もインカレのサークルの飲み会で。忘年会か何かでみなでテキーラを飲んで。だいぶ酔っちゃって。で、私、お酒飲むと、気前がよくなるの。それでその飲み会のお金を私が支払ったんだよ

「どれくらい?」

- んー。覚えてないけど数万円。現金はなかったからカードだった気がする

「大学生で数万円はすごいね」

- でしょー。もうそれ以来、飲み会がある時はカードは持たないようにしてる笑。それで、帰りも、終電はないけどタクシー乗るお金がなくって。気づけば知らない人と一緒にタクシーに乗ってて。気づいた時はパニックになって、『おります、おります。ごめんなさい。そういうんじゃないです』って叫んだよね

「どうしたの?」

- 何もなかったよ。そのまま、確か、最寄りの駅に降りて、そこから親に電話して迎えにきてもらった気がする。

「男の人は怒ってなかった?」

- 覚えてないけど、大丈夫だったんだと思う。ほんと怖かった

女は赤ワインを飲み干す。男はカウンターをじっと見つめる。

「それが、一番の失敗話?」

- 思い出せる中ではそうかなー

「じゃあ、俺の親友と寝たのは、一番の失敗じゃないってこと?」