眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

空前の洗髪ブーム

2017年、あるWebサービスが業界を賑わした。それは「美容院ナビ」というサービスで、各種の美容院のレビューサイトだった。いわば、食べログの美容院版と考えてもらえばいい。

従来のHotpepper ビューティと異なるのは、徹底したレビュー機能にあった。

そのサイトでは、美容院のみならず、スタイリストの評価まで投稿された。また多面的な評価が行われ、「清潔さ」「立地」「待ち時間」「スペースの幅」など評価項目は30を超えた。多くの口コミが投稿され、いままで可視化されていなかったユーザの美容院のニーズが明らかになった。

そこでわかったのは、人々は想像以上に「洗髪マッサージ」に重み付けをおいていることがわかった。特に女性よりも男性だ。このようなレビューが多く投稿された。

この店の頭皮マッサージは死ぬまでに1度は経験する必要があるでしょう。快感を超えて、異世界につれていかれます。日本頭皮マッサージの最先端であり最高峰とも言えるでしょう。その気持ちよさは風俗の比ではありません。

マッサージの指のしなやかさはまるでクラシックを奏でるようであり、そのリズムは、犯罪者が自白をしてしまいそうな心地よさです。またシャンプーの匂いもプルメリアで異国情緒が溢れる香りには、ここがバリのように感じます。そして、耳に聞こえるかすかな音楽はクラシックではなくジャズであり、そのスウィングには、脳髄が溢れ出しそうです。

もし、私が手術をしないといけないとしたら前日はこの頭皮マッサージを受けるでしょう。私がこの店に出会えたことを神に感謝します。

それにより、店は洗髪でしのぎを削り始めた。まるで飲食店がデザートを売りにするように。

ある店などは、マッサージ業界からマッサージ師をスカウトし、洗髪担当者としてアサインまですることになった。カットの指名とは別で洗髪担当者の指名もできるようになった。人気の洗髪士は1年待ちという予約になった。秋葉原にあったメイドがシャンプーをしてくれるモエシャンは、この世の春を謳歌した。

とうとう、カットせずに洗髪だけ受ける人も登場し、世の中に洗髪ブームが吹き荒れた。ワイシャツは自宅で洗濯せずにクリーニングで出すように、洗髪は外でするもの、という人も現れた。

洗髪も「前菜洗髪」「メイン洗髪」「デザート洗髪」とコース化された。また、巻きマッサージを根底としたイタリアン風洗髪や匂いを重視したフレンチ洗髪、密着を重視したアメリカン洗髪など、多様な流派が生まれた。

素材のPRも激化し、白ワインで洗髪する店や洗髪後のドライヤーを南アルプスの風を使う店も現れた。

なお、このブームはまつげ洗髪というトレンドが生まれ、「まつげに洗髪しても大して気持ちよくない」という気付きと共にバブルは崩壊した。