寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

ハンバーガーを毎日食べる男とハンバーガーが嫌いな女

「アメリカでは、インアンドアウトという美味しいハンバーガー屋さんがあってね」と、サダさんが喋る。

まさかこの人が、こんなにハンバーガーが好きだったなんて。

サダさんは、延々とインアンドアウトバーガーがいかに美味しいかを力説する。レタスのシャキシャキがすごいんだよ、と。私は、そのレタスは紀伊国屋の閉店後に調教されたレタスかしら、と考える。

インアンドアウトが素晴らしいのはわかった。ただ、問題は私はハンバーガーが好きではないということだ。

しかし、最初のデートということもあり、それを言えなかった。そして、案の定、連れて行かれたのがハンバーガー屋だった。

「ここのハンバーガ絶品なんだよ」と、三宿の郊外にあるハンバーガー屋に連れて行かれた。コンパの時に、ハンバーガー好きという情報は言ってくれていたら。そして、私に「ハンバーガー大丈夫?」って聞いてくれてさえいれば、こんなことにならなかったのに。

しかし、いまさら断るタイミングを逃した私に逃げる方法はない。ハンバーガー屋でチキンだけ食べるという方法も考えたが、さすがに攻撃的すぎる。しょうがなく一番小さそうな「ベーシックバーガー」を頼む。

サダさんは「さすが。それが一番うまいんだよ」という。コミュニケーションのすれ違いが大きすぎて高低差に竜巻が生まれそうだ。

その間、ひたすらサダさんはハンバーガーの話をする。「毎日2食はハンバーガーなんだ」という。このハンバーガーさえなければ、サダさんは良い人そうなのにな、と私は思う。

そして、10分が経ち、運命の時が訪れた。

プレート一杯のハンバーガーとポテトとサラダ。サダさんはチーズやキノコが乗ったハンバーガーのすごいものを頼んでいる。

「さぁ食べよう」とサダさんは食べはじめる。私は、ポテトから手を伸ばす。

サダさんは「あ、美味しいものは後で食べるタイプ?かわいいね」という。逆だ、嫌いなものを後に残すタイプだ、と訂正したい。

どうやってこの場を切り抜けようかかんがえる。

「私、ハンバーガーはフォークとナイフでしか食べれないの」と思わずつぶやく。見開くサダさんの目。この目は「ハンバーガーは手で食べることが至上主義、ハンバーガの利点の1つは漫画を読みながら片手でバーガーが食べれることなのに。ナイフとフォークでハンバーガを食べるなんて邪道の邪道。密教だ!」と言っている。

「だから、ごめんなさい。このハンバーガーはサダさんが食べて」という。サダさんはやさしく、「そうだよね。フォークとナイフの方が食べやすいよね」と、店の人にフォークとナイフを頼む。いや、私の求めているのはそれじゃない。私が求めているのは逃げ場だ!

目の前にフォークとナイフが置かれ、いよいよ逃げられなくなる。私は観念して告白する。

「ごめんなさい。黙っていたけど、実は私はハンバーガーが食べられないの」

それを聞いたサダさんの目が大きく見開かられる。それはまさに「実は右手と思ったら左手だった」と気づいた時のように驚いた目であった。

黙ってまつこと3分。サダさんはようやく呼吸をし始めた。あまりの驚きで生体反応が止まっていたようだった。

「そか。ごめんね。聞かずに。ここをでようか」とサダさんは蚊のなくような声で言って、お会計をしてくれた。全部出してくれた。そして、そばの美味しいお店につれていってくれた。そこで私は半分を出した。

それから次のデート以降、サダさんはハンバーガーの店以外を選んでくれた。私はある時に聞いた。「今まで毎日2食はハンバーガーを食べていたのに大丈夫なの?」と聞いた。

「大丈夫だよ。朝、パンを食べて、昼に肉を食べて、夜にパンを食べるので、1日のトータルの食事がハンバーガーになってるんだ」

私はこの人のパティになってもいいかな、と少し思った。