UberEATSラブストーリー
先週、UberEATSという食事の宅配サービスがはじまった。既存の宅配サービスよりも早く安く届けてくれるらしい。
ちょうど週末で、家に引きこもっている時に、Facebookでその広告が流れてきたので利用してみた。ランチのために化粧して服を着替えて、髪の毛をセットして外出するのは億劫だ。
自分の住所を設定すれば、注文ができるお店が表示される。
パスタやチキンなどたくさんあるが、ここはやはりハンバーガーでしょう。バーガーマニアのウルティメットブルーチーズバーガーを頼む。
1241円をカードで決済すると、アプリの画面は「いま作ってるよ」という状態に変わった。到着時刻は13時20分。
トニー賞のオープニングをYouTubeで見ながら、ハンバーガーを待つ。20分ほどたったら、状態が「できたよ。配達してるよ」という表示に変わった。
そこには配達者の顔と名前もでている。そこに出ていた名前は、タツヤ。
思わず見知ったその名前に過去の記憶が蘇る。その名前を持つ男性の心当たりは1人。5年前まで私が付き合っていた男性だった。ただ、タツヤという名前の人はたくさんいるでしょう。ただ、表示される顔写真にタツヤの面影がある。
アプリでは「あと8分で到着するよ」とステータスが表示される。私にとって、その8分は、急に別の意味合いを持つものになった。「昔の恋人と偶然の再会をするかもしれない8分」だ。
彼は私のことを気づいているのだろうか。わからない。もしかしたら人違いかもしれない。
ただ、もし彼だったらどうしよう。やばい、化粧をしなくては。私は、慌てて洗面ルームに飛び込む。通常、化粧は20分。それをなんとか5分で切り上げて、残りの2分で服を着替えよう。
ドーラも真っ青のスピード準備で、なんとか最低限のメイクを終える。そして、一張羅のキャメル色のカーディガンを羽織る。
その間にもアプリは、配達員の場所を表示させている。どんどん近づくタツヤの文字。もしこれが昔、借金した相手の名前だったら、逃げ出したくなるだろうな、と良からぬ想像もしながら、化粧の仕上げをする。
そして、部屋に響くインターホン。漫画のように「ビクッ」としながら、インターホンに向かう。インターホンにはカメラがついていないから彼かどうかわからない。「応答」のボタンを押す。
「UberEATSです。お届けに参りました」。その声は、忘れられない見知った声。
心臓をバクバクさせながら扉に向かう。ああ、玄関の靴を片付けるのを忘れていた。慌てて、靴を下駄箱に放り投げて、扉を明ける。
そこにいたのは、知っているタツヤだった。
「わ」と一言つぶやく。
タツヤは一瞬、なんのことかわからない顔をしながら、数秒後、破顔した。
「ユキコ?」
「そー。びっくりしたー。配達の名前みて、もしかしたらと思ったけど、まさかだったよ。久しぶりだねー。
「久しぶりだね。元気?」
「元気、かな。元気?」
「元気だよ。自転車こいできたから暑いけど笑。はい、こちらオーダーいただいたお品物です」と、男は大きなバッグから品物を取り出す。
「ありがとう。配達員してるの?」
「いや。なんだか面白そうで週末に少しだけ初めてみたんだ。自転車だと運動にもなるし。本業は変わらずにやってるよ」
「そっかー。まさかこんなところで出会うなんてね。インターネット嫌いなあなたがこんなことをしてるなんて意外」
そして、何言か会話を交わしてから、彼は去っていった。連絡先を聞こうと思ったけれど、さすがに唐突すぎると思い、聞けなかった。
とりあえず彼の評価は5をつけておこう、と思う。
しかし、ユキコは知らなかった。
タツヤは、ユキコがUberEATSをオーダするように、ユキコに向けてソーシャル広告を出稿した。そして、ユキコが好きなハンバーガーをオーダーするというのを見越して、近くのハンバーガー屋でタツヤが待機していたことも。
偶然のように感じたのはユキコだけで、実はタツヤが3か月分の週末を潰して、ユキコのオーダーを待ち受けていたことを、ユキコは知らない。
この後、ユキコはUberEATSに連絡をして「配達員の指名はできないのか」と相談し「そういうシステムはない」と断られる。
その後、しばらくしてから、Facebookでユキコにタツヤからメッセージが届く。「今度、バーガーマニアに一緒にいきませんか」。
UberEATSが届けるのは食べ物だけでない。ときには、恋も運んでくれるのかも、しれない。
Boy meets Girls、ならぬ、Uber EATS girlsだ
※言わずもがなですが、上記はフィクションです
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参考にしました