嬌声
最高に身体の相性の合う女性だった。いままでの行為が何だったんだ、と思えるほど。
何より彼女の反応が艶やかだった。その嬌声が部屋に響き、それにより興奮が増幅された。鼓膜と粘膜を震わせる音だった。人は聴覚でも興奮することを知る。
そして声をなぞるように背中にたてられた彼女の爪が、また新しい快楽を呼んだ。
そんな関係も、日常のすれ違いと共に終わりを告げる。
俺は休日は寝て過ごすのが好きで、彼女は外に出るのが好きだった。俺は洋食が好きで、彼女は和食が好きだった。俺は毎日会いたくて、彼女は1人の時間を好んだ。
そのような違いが積み重なり、いつしか分水嶺を超える。
「別れましょう」という彼女の言葉と共に。
「そんな。確かにすれ違いは多かったけど。それでも、あんなに身体の相性は良かったのに」と俺は震える声で叫ぶ。
女は目を合わせずつぶやく。
「あなたは結局、悲鳴と喘ぎ声の区別もつかなかったのね」