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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

風に答えを求めて

2016年のノーベル文学賞ボブ・ディラン氏が受賞した。村上春樹氏だ、といわれていたが、村上氏は受賞にいたらなかった。

この両者の名前を聞くとある共通点を思い出す。

ボブ・ディラン氏の有名な作品に「Blowin' in the Wind(風に吹かれて)」という歌がある。最後は「The answer is blowin' in the wind(答えは風に吹かれている)」というリフレインが印象的な名曲だ。

答えは本や世の中にあるのではなく、答えは風に舞っている

という思いが込められている。 それが意図するものは色々に解釈できるだろう。「答えは誰もわからない」とも取れるし、「動くことでしか物事は解決しない」とも取れる。いずれにせよ、この歌は多くの人を動かした。

また、村上春樹氏の最初の長編作は「風の歌を聴け」だ。ただし、これは、ボブ・ディラン氏からとったタイトルではなく、トルーマン・カポーティの「Shut a Final Door(最後の扉を閉めろ)」という小説の最後のフレーズが「think of nothing things, think of wind(風のことだけを考えろ)」というところから取られている。

村上氏は、エッセイで「辛い時には、このフレーズを思い出し、風のことを考えた」といったような趣旨のことを言う。

ボブ・ディランは答えは風に聞けと言い、村上氏は風のことだけを考えろという。

こんな二大巨頭が「風に聞け」というのだから、風にはきっと何か答えがあるんだろう。そう思い、僕はベランダに出て耳を澄ます。

秋の風が心地よい。こんな風が無料で受けれるなんて世界は太っ腹だなと思う。この風はどこから来た風なのか。パラミラかペリトモレノか、あるいは千代田区か。

 耳を澄ますと自分の呼吸が聞こえ、自分が生きていることを知る。明日までにしないといけないことが重い浮かび上がってくるけれど、風に意識を集中させることで、それらをどこかにしまいこむ。風の声を聞く。遠くの犬の鳴声が聞こえる。もっと澄ましていると、昔、西の海岸で吹かれた風を思い出す。子供の頃の縁日の思い出が浮かび上がってくる。

何も教えてくれない風に耳を澄ます。これは僕が答えを聞けていないだけなのか、風がまだ教えてくれないのか。それでも僕は耳を澄ます。風のことだけを考える。