雄弁な指
週末の六本木のクラブでは、今日も男と女が新しい出会いを求めてすれ違う。
「職業当ててみせようか」と、男がさきほど会ったばかりの女に言う。
「いいよ、当てて」。女はテキーラ・サンライズの入ったグラスを傾けながら気だるそうにこたえる。カウンターに座る身体はダンスフロアに向いている。
「保育士か幼稚園の先生。あるいは看護師さんでしょ」
「すごい。どうしてわかったの。幼稚園の先生だよ」。女は男の方に身体を向けた。
「ネイルだよ。ネイルをしてないでしょ。クラブにくる人でネイルをしていないのは、そのどれかの職業の人が多いんだよ」。男は得意げな顔で回答する。
「なるほどねー。ちなみに指がなかったらどうするの」と挑発的な女の顔。
「そっち系の人だろうね」
「薬指に日焼けの後があれば」。女が男の薬指を掴みながらこたえる。
「既婚者か薬指に水着を着るタイプの人だろうね」。男は女の指に指を絡め返す。
「こんなに指のことが詳しいあなたは?」
「統計学者か推理小説家だろうね」と男は女の腰に手を回しながら回答する。
こうして今日も六本木の夜は老けていく。