からあげとレモン
「ね、唐揚げにレモンをかけていい?」と彼女が聞く。
「いいよ」と僕が答える。
レモンを手に取り、笑顔で彼女が言う。
「知ってた?レモンって、普通は尖った方を下に向けて絞るでしょ。でも、ほんとは逆に持って絞った方が美味しいんだよ
レモンの皮に香り成分がたくさんあるから、皮側の汁が溢れやすいように、こう絞った方が香りがいいんだって」
そう言いながら、彼女はレモンを上に向けて絞った。唐揚げにレモン汁が滴る。
向きくらいで香りが変わるのかな、と思いつつも、彼女の得意げな顔を見ていると、なんだかそれが本当かどうかなんてどうでも良い気がした。
レモンから飛び散った汁が少し目に入ったけれど、彼女に気づかれないように目を開け続けた。
涙目の前に見える2人では食べきれない量の唐揚げ。彼女はレモンを絞りたいがためにこれを頼んだのかな、と少し考えた。でもまぁなんだっていいや、と思った。唐揚げは嫌いじゃないし。
レモンの生き方を考えた。丸善の本の上に置かれる人生もあれば、マーマレードになる人生もある。雑誌の表紙で持たれる人生よりは、唐揚げにかけられたいな、と思った。