寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

着れなかった白衣のコスプレ

ハロウィンの時期に町中では様々な衣装が触れている。その中に医者の白衣を見ると、いつも1つの後悔が蘇る。

10年前のこと。当時学生だった僕には恋人がいた。そして恋人同士の関係のままハロウィンを迎えた。当時は、今ほどまで盛り上がっているわけではなかったが、それなりに各所ではイベントが行われていた。

暇を持て余し、刺激を求める学生らしく、僕たちは友人が主催するハロウィンのイベントに参加することになった。

彼女は看護師の衣装を選んだ。そして、僕は何も考えずにバットマンの衣装を選んだ。なんとなくかっこいいし、好きだったからだ。

彼女の看護師、昭和的な呼び方で言えば"ナース服"は非常に艶めかしかった。ドンキホーテで買っただけあり、通常のナース服と異なり、胸元を強調しスカートが短かった。そして、それに合わせて彼女はヌーブラをつけ、濃い赤の口紅を着けていた。

いつもと違う彼女の装いに、普段とは違う脳内物質が出たように思う。誇らしいほど美しい彼女だった。そして、イベントは滞りなく終わり、とても楽しい時間だった。

しかし、それから1年も経たないうちに彼女は別れを切り出した。彼女の言い分としては、決定的な何かがあったわけではない。些細なすれ違いなどが重なり、いつかそれが分水嶺を超えた。

今思い返しても、それはとても辛い別れだった。自分からは別れるなんて思わなかった。まさに青天の霹靂とでも言うような。次の恋にいくには2年以上の時間を要した。

今でも、その彼女のことを思い出す。そして、その時に合わせて思い返すのが、ハロウィンの1つの後悔だ。

なぜ、彼女がナース服を選んだならば、僕は医者の白衣を選ばなかったのか。彼女が看護師なら、僕は医者のコスプレを選んでもおかしくなかった。でも、僕はその想像さえできなかった。自分が着たいものを着ただけだった。

だから、「もし、あの時に医者のコスプレをしていたならば」と思い返すのだ。もちろん、実際に医者のコスプレをしていても、別れは避けられなかったかもしれない。でも、僕が医者のコスプレを選ばなかった自分の考え方や性格、あるいは思慮のたりなさが結局、彼女を傷つけることになり、すれ違いを生み別れに帰結したのではなかったか、と思うのだ。

だから、僕はこの時期に街で医者の衣装を見ると、自分が着ることができなかったあの日を思い出し、終わらぬ自問自答を蒸し返すのだ。

- もし僕が白衣を着ていれば、今頃は違う未来があったのだろうか、と