寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

ある選挙の果てに

ネイトは、通りを歩きながら、今日起こった悪夢を反芻する。深夜の街だけれど、今日はいつもよりも賑やかだ。嬉しくてお酒を飲む人と悲しくてお酒を飲む人で溢れているからだろう。

ネイトもお酒を飲みたかった。ただ、その前に自分の中でこの出来事を受け止めておきたかった。

ネイトが何より許せないのは、トランプは女性を侮辱する人だった点だ。紳士であることをポリシーとしているネイトにとって、その点だけでも、トランプに票を投じることはできなかった。もしトランプが正しい政策を言っていても、もし彼が女性を軽んじてみる人間ならば彼は投票はしなかっただろう。

今回、ネイトが株で損をした50万円は、そのポリシーを信じたことの代償だとしよう、と彼は考えた。彼は自分の「女性を尊重せよ」というポリシーを曲げたくはなかった。それを貫きとおすには、時に痛みがともなう。今回の株の損は、そう受け止めた。

しかし、それを別にしても、ネイトはヒラリーが勝つ方を信じていた。データサイエンスを仕事にする者として事前予測の数字を信じるのは当たり前だったし、何より、合理的に考えれば、彼女が勝つに決まっていた。

ただ、現実は、人間は合理的に物事を考えないということだったのだ、とネイトは思う。それが経済学の難しさでもあり、妙味でもある。

それでもネイトは納得できない。

「皆の言うことは案外正しい」という言葉通り、最終的には多数の人間は正しい選択をすると思っていた。何かの言葉で見た「最終的に、私は人間が勝つ方に賭ける」という言葉を信じていたネイトは、人類に裏切られた気分だった。

その点が彼を悩ませていた。単に選挙に負けたのではない。人類の叡智が負けたのだ。これをどうすればいいのだ。

はっとそこでネイトは気づく。

戦いはまだ終わってないのだ。人は時に失敗をする。時に間違いをする。ただ、それでも、最後には正しい答えにたどり着くのだ。今回は、その途中経過の失敗にすぎない。

4年の悪夢を経て、我々はまた賢くなるだろう。叡智をより蓄えるだろう。そして、その時に改めて人類は勝つのだ、と。