ビニル傘
彼は、いつもしゃれた傘を指していた。つよーい風にも耐える丈夫な骨組み。水滴を弾くようなビニルの張り。気持ちよさそうな持ち手。
でも、度々、彼はその傘をなくした。
電車の中や、コンビニの傘立て、どこかのバーで。飲んでいる間に雨が止むと、彼は傘のことなんてすっかり忘れて街にでてしまうのだ。気持ちはわかるけれど。
そして、毎回しばらく反省する。それでも、また同じ傘を買う。多分、5000円以上はする傘だろう。
だから私は聞く。
「そんなに無くすならビニール傘にしたら?」と。
毎回、高い傘をなくすのはもったいないじゃない。
でも、彼はこう言った。
「60年後に死ぬのがわかっているからって安い人生は送りたくないんだ。だから、なくすのがわかってるからって、安い傘は買わない」