寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

口紅のプレゼント

「口紅がいい」

「誕生日に欲しいものある?」と聞いて、返ってきた言葉がソレだった。

口紅で思い出すことがある。大学時代にアメリカに留学していた俺は、家族にお土産を買って帰る必要があった。その時に年上の彼女に言われたのが「このブランドのこの番号の口紅が定番で喜ばれるわよ」というものだった。

それ以来、海外旅行では、その口紅を馬鹿の一つ覚えのように買って帰っていた。26歳の時に彼女に怒られるまでは。

「ねえ。口紅のプレゼントの意味って知ってる?」。チャンギ空港の免税店で口紅を探す俺に彼女は言った。「あなたにキスしたいっていう意味があるのよ」。彼女は僕の頬を手ではさみながらそう言う。それ以来、俺は口紅を人にプレゼントすることを辞めた。

それを思い出しながら、悩んで買ったのは赤い口紅だった。彼女は普段は薄い口紅をしていた。あるいはしていなかった時の方が多いかもしれない。朝、ハグをした時にワイシャツにファンデーションがついて騒いだことはあるけれど、口紅がついた記憶もない。

だからこそ、彼女が普段は身につけないものをプレゼントしようと思った。

そして、誕生日の日が来る。

誕生日のディナーは、子羊のパイづつみ焼きが美味しいフレンチのグランメゾンで。誕生日のデザートプレートが「想定通りのサプライズ」で行われ、「想定通りのサプライズ」でプレゼントが渡される。彼女は想定通りの驚きを見せて、想定以上に、黒のドレスに赤い口紅が似合っていた。

そして、もう1つ想定通りではなかったことが起こる。

彼女が俺の部屋に来る。シャワーも浴びて、ベッドに入る直前、彼女は洗面台に向かう。そこで彼女は、口紅を塗りなおしてくる。裸に赤い口紅の彼女を見て思う。マリリンモンローは寝る時にシャネルの5番を着て寝ていたというけれど、赤い口紅と寝るのも悪くない。

「これからキスをするのに塗るの?」

「これからキスをするから塗るのよ」

ココ・シャネルの「口紅は、落ちる過程にドラマがある」という言葉を思い出しながら、唇に唇を重ねる。彼女が口紅を欲しがった意味を考えながら、彼女の赤い唇に唇を重ねる。