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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

カルネアデスの板

最近、車が人やお店にツッコむ事故が多いな、と思っていた。だいたいがブレーキを踏むところを間違ってアクセルを踏んだことが原因らしい。

それを聞いて、自分はアクセルとブレーキを間違わないように、ペダルを踏む足は裸足にした。そうしておけば少しでも間違って踏むことが減るだろう。アクセルとブレーキでは、場所の感覚が違うからだ。

でも「ブレーキが効かなかった」という人もいる。もしそれが本当なら怖いな、と思った。ブレーキが効かないのは自分で制御できないしな、と

怖いな、と思いつつも他人事だった。そんな自分にまさか、のことが起こるとは思ってはいなかった。県道から、一方通行の道に入り、しばらくしてからだった。

ブレーキが効かない。

足元を見て何度も踏んでも効かない。頭が真っ白になる。

とりあえず道を外れないようにハンドルをコントロールする。サイドブレーキを引く、という発想に思いつく前に、目の前にT字路が現れる。60キロのスピードでこの角は曲がれない。

右側には目の前には小学生の列。目の前には壁。

もし右側に行けば小学生を跳ねてしまうが、その先は田んぼだから自分は助かるだろう。まっすぐにいけば壁に衝突する。

考えている時間はなかった。理性ではまっすぐに行きたい気持ちを抑え、ハンドルを全力で左に切る。

ギリギリ小学生を避けて車は壁にぶつかった。激しい衝撃が車に響く。シートベルトが我が身を押さえ込む。それでも、頭を強くダッシュボードにぶつける。こんな古い機種にエアバッグはない。

痛い、という感情もない。ただ衝撃が身体を走った。強い音が頭に響く。

意識薄れる中で考えた。

「人に迷惑をかけるな」と言っていた母のことを。もし、「人に迷惑をかけること」と「自分の命」を天秤にかけた時にどちらを取るべきだろう。母は、「自分の命をなくしてでも人に迷惑はかけるな」と言ってくれるだろうか。自分の選んだ道は正しかったのだろうか。

消え行く意識の中で、「学校の哲学の授業では、そんなことを教えてくれた方が良かったんじゃないかな」と思った。