寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

独りの帰り道

年末の金曜日の仕事帰り。電車の中には、酔っ払いが溢れかえる。仕事で遅くなった自分にとっては、このアルコールの匂いが疎ましい。

駅について降りる。駅前のコンビニを通り過ぎて、ロータリーを回る。

駅前で電車から降りる人を待つタクシーや待ち合わせの人たちを見て軽く嫉妬をする。こんな寒い日は、私も誰かと一緒に帰れたらな、と。いつもはコンビニで買う夕食も今日はなんだか買う気にもならない。眩しい世界を見たくない。

 いつもの坂が見えてくる。何百回と通った道なのに、なぜか今日はこの坂がいつにもまして疎ましい。次に引越する時は、坂のない家に住もう、と思うけれど、一体、いつ引越するんだろう。

坂を登り、小さなアパートの小さな部屋に帰る。オートロックもない小さな部屋。ふと思いついたように、「ただいま」と口に出す。何も返してこない静寂。思わず出るため息。

いつの間にか一人暮らしにも慣れてしまったけれど、こういう疲れた日には、1人ぐらしの辛さを痛感する。誰か家で待っていてくれたらな。

子供の頃は1人で家にいるのが嫌で、帰って誰もいない時はこたつに入って隠れていた。そしてテレビを付けて、静寂を打ち消して。うとうとして、起きる頃には、買い物から帰ってきた母が「夕食できたわよ」と起こしてくれる。寂しさから寝ることによって逃げる頃ができた時代。

今はその手段は使えない。寝て起きても、誰もいるわけではない。テレビをつけるけれども、その賑やかさが、今は余計に孤独を増加させる。あのテレビの向こうの人たちには笑顔があって、私にはない。私にはないものを彼らは持っている。

コートをかけ、携帯を見る。すると一通のLINE。

「最近、連絡ないけど元気してる?年末は帰ってこれるの」と母からのメッセージ。

母は偉大だな、と思う。私が元気がなくなっている頃を見計らって連絡をくれる。

元気だよ、と母には返そう。

いまでも独りは苦手だけれど、私はもう小学生の私ではない。あの頃より強くなった私は静寂と対峙できるようになったんだ。母が心配しなくても済むくらいには強くならなきゃ。リモコンでテレビを消しながら自分に問いかける。

年末にはゆっくり帰ろう。大きな湯船にバスクリンを入れよう。

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今回の記事は以下の文章が素敵だったので、設定を拝借しました

»夜の住宅街を散歩した話