寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

パルミラ

お前たちの中には、パルミラに行ったことのある奴はおるか。手をあげてみぃ。

何人かおるな。お前らは幸せじゃ。あの神殿を生で見れたんじゃから。

そいじゃあ、パルミラの話をしよう。

この街は、お前らも知ってる通り、シリア砂漠にある。紀元前3年頃からシルクロードの中継地点として欠かせぬ街となった。想像するが良い。シリア砂漠は大きな大きな砂漠だ。できれば避けて通りたい砂漠だ。多くの人が迷子になって死ぬ。

しかし、シルクロードを渡るには、そこを通らないといかん。そんな時に、旅人たちが頼りにしていたのがこの街だ。それがパルミラじゃ。人たちの希望が詰まった街じゃ。

世界でもっとも夕陽が美しいとも言われるように、美しい街じゃった。ペルセポリスペトラ遺跡と合わせて3P遺跡と呼ばれているのはお前らも聞いたことがあるじゃろう。

最初にその名前が歴史に刻まれたのは紀元前2000年前ほどじゃ。いまから4000年前になるの。その頃は、タドモルという名前じゃった。そのあたり辺りに生えていたナツメヤシアラビア語読みから来ている名前になる。砂漠のオアシスにはナツメヤシがあったからの。

しかし、ある時に、この名前はパルミラと呼ばれるようになった。これはナツメヤシギリシャ語読みじゃ。

つまり、この街はアラビアの民の街だったが、ある時からギリシアの民もこの街を訪れることになった。アラブとヨーロッパの融合地点じゃった。

それによりローマ帝国にも狙われることになった。

そんな3世紀には、この街に女王がうまれた。美しい街に生まれた美しい姫じゃ。名前はゼノビアといった。碑文には「最も傑出した敬虔なる女王」とまで書かれている。

美しい女王じゃった。歴史家のギボンはゼノビアについて「クレオパトラに劣らず」とまで書いておる。天は二物を与えず、というが、このゼノビアについては別じゃった。頭も良かった。ホメロスプラトンを比較した書物まで書いていたという話もある。戦いにおいても実際にいくつも軍を指揮し、戦いを勝ち取った。

しかし、273年、ローマ帝国との長きの戦いによって、ついにゼノビアは降伏し、パルミラ王国は崩壊した。

しかし、そのパルミラ王国に進行したローマ軍は荘厳なる神殿を見る。それが、お前らも知っておるベル神殿じゃ。聞いたことはあるじゃろう。あまりにも美しく、ローマ軍はそれを破壊することを躊躇したほどだった。

じゃから、今まで、このベル神殿は原型のまま残っておった。そう、イスラム国が今年、この神殿を壊すまでな。

数千年残っていた遺跡が壊れるのは悲しいわい。シリアが誇る遺跡じゃったからな。何より、ローマ軍さえも壊さなかった我々の先祖の力の結晶を、こんな形で壊されるのは耐えらんよ。

じゃがな、仕方がないんじゃ。物はいつか壊れゆく。壊されるというのも歴史の流れじゃ。

大切なのは、お前さんがたがこの話をちゃんと後世まで伝えることじゃ。シリアにはパルミラという美しい街があり、そこにはゼノビアという美しい女王がいた。お前らはそれを引き継いで生きるんじゃ。たとえ神殿がなくともな。