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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

撮影した記憶のない3枚の写真

「大掃除をしなきゃ」と写真を整理していた。といっても現像した写真ではなく、Google photoにアップロードしたデジカメの写真の整理だ。

すると、撮影した覚えのない写真が紛れ込んでいるのに気づいた。アイスクリームの自動販売機、コーヒー、そして、手の写真の3枚。

「あれ、これ何の写真だろう」と見てみる。昔、国語の教科書でそんな話があったことを思い出した。その話では、主人公の女の子が偶然、古い写真を手に入れる。その写真がどこで撮られた写真かを探すという話だ。

いまは当時と違いデジタルの写真だから、EXIFという写真に埋め込まれたデータを見れば、それがいつ、どこで撮られた写真かはわかる。調べてみると、9か月前に鎌倉で撮られた写真だった。

- ああ、旅行にいった時か

と思い出す。少し苦い気持ちで。

まだ当時は付き合っていた彼女といった最後の鎌倉の旅行。もともと喧嘩をしていて、仲直りでいった旅行だったが、結局、その旅行の後に別れてしまった。

でも、この旅行で僕はこんな写真を撮った覚えがない。写真の情報を見ると、16時23分に撮られている。この時に何をしていたか思い返す。

- あ、そうだ。体調を崩して寝ていたんだ

少し風邪ぎみだった僕は宿につくなり、少し寝てしまった。その時に手持ち無沙汰になった彼女が撮った写真に違いない。

この旅行は散々だった。そもそも喧嘩した後の旅行だったから、お互いに距離があった。その上で、僕が体調が悪かったこともあり、なおさら、コミュニケーションがうまくいかなかった。

だから、せっかくもっていった一眼レフのカメラだけど、全然撮影しなかった。だから、彼女が撮ったこの3枚の素足んだけが忘れられていたのだ。

すると次にこの疑問がでてきた。

- なぜこの3枚なんだ

彼女はなぜこの3つを撮影したのだろう、と考えた。適当にとった写真なのか。ただ、写真の番号を見ると、10375、10378、10379と数字が飛んでいる。10376と10377がない。つまり、彼女は1枚目にとった写真の後に、2枚は削除している。そう考えると、この3枚に何かの意味があると考えた方が自然だろう。

この手は俺の手だろう。ほくろの位置もあっている。それに、知らない人の手を彼女が撮影したとは思わない。

アイスとコーヒー、そして僕の手の共通点。

色に共通点はない。アイスは、ハーゲンダッツだ。彼女はナッツが好きで、僕は抹茶が好きだった。そこらの旅館にあるようなハーゲンダッツの自動販売機。彼女はこれに何を思って撮影したのだろう。

コーヒーは、テーブルの上におかれた洋風のカップに入っている。多分、旅館のロビーかカフェで飲めるコーヒーだろう。ソーサーの上におかれ、スプーンもある。

寄せて撮っているので、カップに入ったブラックのコーヒー以外の情報はない。

手の写真は、僕の手と腕まで入った構図だ。しかし、この構図に何か意味があるとは思えない。僕が寝ていて、布団から飛び出た手を撮影しただけのように思える。

彼女の心境になって考える。

僕が部屋で寝ている。暇になる。カメラを手にとって、旅館を歩く。そして、何かを考えて、これらの写真を撮影した。

最初に撮影したのはアイスだ。それから12分後にコーヒーを撮っている。そして、さらにそれから10分後に僕の手が撮影されている。

彼女はまずハーゲンダッツの自動販売機をみかけて写真を撮った。その後に、2枚、何かを撮った。そこで何かを思いつく。それによって、その2枚を削除して、コーヒーを撮った。

そう考えると、コーヒーの写真には彼女の意思が入っているハズだ。コーヒー、コーヒー、コーヒー、、、。

- あ、わかった

ハーゲンダッツのアイスも、コーヒーも彼女が好きなものだ。

そう考えると、最後の写真は、「僕」ということなんだろうか。

彼女は自分が好きなものを撮影した。そして、3枚目は僕だった。僕のカメラで。

僕はきっとこの写真を見るとわかっていて、これを残した。

- ミサが俺のことを好きかどうかわからないんだよ

と彼女に言った言葉を思い出す。自分から甘えてくることのなかった彼女にぶつけた言葉だった。自分の不安を認めたくなくて、ぶつけた言葉だった。

言葉少ない女性だった。最後まで「好き」と言ってくれることはなかった。

この写真に気づいていたら、別れは回避できただろうか、と僕は考えた。写真に映る自分の手を眺める。その手を掴んで揺り起こしたい衝動にかられる。