初夢みた?
「ねぇ、初夢みた?」
ベッドから起き上がりカーテンをあけて女が言う。男は、目をつむりながら答える。
「うーん。みたかな。覚えてないな」
女は布団に入り込みなおす。
「私は見たよ。ある男がいるの。その男には恋人がいるの。
でも、年末に元彼女から連絡があるの。『久しぶりに飲もう』って。
男は悩むの。行きたいけど、彼女に言ったら怒られそうだ。
そうだ、黙っていこう、と。そして年明けに彼女に黙って元彼女と飲みに行くんだけど、彼女にそれがバレて、怒られるという夢」
男は話の途中から目を見開く。じっと天井を見る。
「そうかー。それは、ボケナスな男だね。でも『一富士二鷹三茄子』のナスビが入ってるから縁起がいいかもね」
男は目をつむりながら喋る。女の方には顔を向けない。
「あー。俺が見た夢も思い出した。僕の夢にも、『彼女に黙って元彼女とご飯を行こうとしていた男』がでてきたよ。
でも、結局、その男は『これは浮気ではないけど、彼女がいやがることはしないでおこう』と思って、元彼女とのご飯は行かないようにしたんだ。
その男の彼女を大切にする思いは、富士山のように大きいんだろうね」
ベッドの上で女の方に身体を向けながら男が言う。そして女の手をにぎる。
「鷹のように鋭い彼女を持てて幸せな男だね。いい夢見たね。今年も縁起が良さそうだ」
男の手を振りほどき、女がベッドから降りながら言う。
「さて、天気がいいよ。初詣いこうよ。私、お願いごと決まってるんだ。反省した男が、美味しいものをごちそうしてくれますように、って」
男もベッドから降りて顔を洗いに行く。
「奇遇だね。僕も『彼女が食べたいものをなんでもごちそうできますように』ってお願いする予定だったんだ。」
いつもより男が顔を洗う時間は長い。