寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

叫び

※ちょっと怖い話系です。

「変な奴がいる」と思い、携帯から顔を上げた。変な声が聞こえたのだ。

その人は車両の真ん中あたりにいた。

女性のような長い髪の毛と赤いドレスを着た人が、何かを必死で叫んでいた。顔は見えないけれど、全身を震わせながら何かを言っている。何を喋っているのだろう、と顔を向ける。

不思議なことに、同じ車両の人たちは、その人に注意を払っていなかった。

何度も耳をすますけれど、その人の声は、ハウリングを起こしたスピーカーのようなキーッキーという高い声にしか聞こえなかった。

その時、僕は気づく。彼女は車両の中に立っているのではなかった。車両の外に立っているのだった。

それに気づいた時に血の気がひいた。彼女は、走る地下鉄の外から何かを喋っているのだ。

そして、急に僕の目のピントが彼女に合う。それは生きているものではなかった。「違う世界の人」は、見ればわかる。それは、自分たちとは違う。

髪の毛の隙間から見えた顔は異形の顔をしていた。その容姿は僕の体温をすべて奪い取った。

その直後だった。電車は追突事故を起こした。ものすごい音と爆風が社内に充満し、窓が割れた。僕の乗っていた車両も大きく曲がり、遠心力で多くの人たちが壁にぶつかった。想像を絶するほどの圧力が自分の身体にかかる。骨が折れ、息が止まる。

僕は薄れ行く記憶の中で、叫んでいた女性の声を思い返した。

あれは「逃げて」と言っていたのだ。この電車から逃げて、と。きっと僕たちとは別の世界から、この事故を伝えるために。地下鉄の電車の中とは一枚、膜を隔てた別の世界からの声だった。

どうして、僕はそれが「逃げて」と言っていたとわかるのだろうか、と思った。自分がいま、そっちの世界に向かっているからかもしれ