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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

全力父さん

父は手加減というものを知らなかった。常に全力だった。

母親は私によく言ったものだ。

「父さんが、あなたを『たかいたかい』とすると、あなたは2メートルは空に飛び上がっていた。母さんはそれ以来、お父さんに『たかいたかい』はさせなかったのよ」と。

運動会のマラソンでも常に1位だった。事前に走り込みの練習をするからだ。

困ったのはキャッチボールだ。父さんは私に投げる時でさえも、全力で投げた。おかげで私は腕にボールがあたり、大きなあざになったものだ。「女の子に傷をつけて!」と母に強く怒られていた。父は全力で反省していた。坊主にまでしていた。結局、父さんとは、それ以来、キャッチボールはしていない。

でも憎めない人だった。悪意があってやっているわけではない。単純に手加減というものができないだけなのだ。まるで、オンとオフのスイッチしかないシャワーのように。温度調節ができないのだ。

ご飯を食べる時も、テレビを見ながらは食べれなかった。真剣にご飯を食べていた。米粒を咀嚼し時には感想さえ言うこともあった。

私に絵本を読む時にでも、まるで登場人物のように感情移入をして読んでくれた。「ごんぎつね」を読んだ時には父自体が泣いていたものだ。

だから、私は結婚式が不安だった。

常に全力の父が私の結婚式でどうなるのか想像がつかなかったのだ。私が一泊の旅行に行く時でさえも保険や道案内やいざという時の携帯電話など、完璧に準備をする人だった。私の誕生日には毎日きっちりとプレゼントを買ってくれる人だった。

そんな父が私の結婚式でどうなるのか。

結果、私が想像していたよりも、父は立派だった。

結婚式で父は泣かなかった。私は、きっと父が号泣するんだと勝手に思っていた。娘の結婚式では父はそういう風になるのだろうと。

でも、父は涙を見せなかった。微笑んで私を送り出してくれた。

後日、父は母にこう言った。「父さんが泣いても誰も幸せにならないよ。笑顔で送り出すのが父親の役目だよ」。私が思っているよりも父は私を愛し、私のことを考えてくれていた。

涙さえも押しとどめ、感情をコントロールできるほどの強い愛だった。