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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

空気を吸うのさえも嫌がる潔癖症の彼

潔癖症な人だった。

まず、電車の吊革を持てなかった。だから一緒に電車を乗る時には、彼を支えたものだ。

「公衆トイレではどうしてるの?」と聞いたら、お尻が便座につかないように浮かせているらしい。その時に私は、彼の太ももの筋肉が発達していた理由を知った。

外食は好まなかったが、どうしても食べないといけない時は、自分のお箸を持参していた。でもグラスに少しの汚れでもあると気になって、口をつけれないような人だった。それでも、店員さんに「グラスを変えてくれ」というほどの強さも持ち合わせてなかった彼を見ていると、彼が悪いのではなく、彼を潔癖症にした世界を憎んだものだ。

私とキスをするのにも2年かかった。それもフレンチキスだ。小鳥のさえずりのような。それでも、そのキスがとても嬉しかったのを覚えている。

彼はよく石鹸で手を洗っていた。何か不衛生なものを触った時に、彼は1時間ほどかけて手を洗っていた。だから、冬は手がかさかさだった。脂分がなくなっていたのだろう。虚ろな表情でただ無心に手を洗っていた。

中学生時代はバスケットボールクラブに入っていたらしく、そのボールを触るのが嫌で、逃げていたそうだ。だったらバスケなんてしない方がいいのに。でも、「手をけがした」という理由で軍手をはめてすることもあったとか。

日を経るごとに彼の潔癖症は度をましていった。最近では、「他の人の空気さえも不潔だ」と、空気を吸うこともやめた。最後は、部屋で空気清浄機の空気を吸うか酸素ボンベから空気を吸うほどだった。

だから、彼がいま「こんな清潔な場所があったなんて。もう出たくない」という気持ちはわかる。伊達に20年も一緒に暮らしたわけじゃない。

彼の苦労をしっていればこそ、彼の今の状況が彼にとってありがたいというのもわかる。

たとえ、それが隔離された真っ白な病室だろうとも。