寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

私は指輪を売っている

伊勢丹で指輪を売っている。ネックレスやピアスも売っているが、人気なのは指輪だ。数万円から10万円くらいのもの。伊勢丹でいえば、少し安めの価格帯かもしれない。

この仕事をしていると思うことがある。

「この仕事って他の人より幸せになるんだろうか、それとも不幸せになるんだろうか」

この仕事は、他の人の幸せを見る仕事だ。幸せそうなカップルと向き合い、幸せそうな人たちと話をする。いくつも指輪を付け替え、女性は彼氏に「どうかな」と聞く。私も「どうかな」と聞かれて、「お似合いですよ」と答える。その髪型に、あるいは、お客様の雰囲気にお似合いですよ、と。

私は、そうやって女性たちの幸せを受け止める。幸せをもらう。でも、同時に、なんだか私の幸せも吸い取られる気分になる。

「私には、こうやって指輪を買ってくれる人がいない」と。

人と比べたがる人には向いていない仕事だと思う。実際に職場でそういう人がいるが不幸せだ。彼女は、彼氏に、高価な貴金属をねだってしまう。自分が売っている商品よりも高いものを恋人に買ってもらう。そうして、彼女は仕事中に「私はこの人達の指輪よりも良いものをもらっている」と自分を納得させている。でも、そんな恋愛は結局続かない。

友達いわく「毎日パソコンと向き合うくらいなら幸せなカップルと向き合っている方がいいよ」なんて言うけど、本当にそうかな、と思う。人の幸せを見るくらいならパソコンを眺めていた方が心は穏やかなんじゃないかって。

でも、最近、気づいた。ここを訪れるのは幸せなカップルだけじゃない。男性が1人でくることも多い。彼らは恋人のプレゼントを探しに来る。彼らの顔は幸せな顔じゃない。真剣な顔だ。

どういうものだったら恋人は喜んでくれるんだろう。どれが似合うんだろう。と必死に探す。

その顔を見ていると、まるでスポーツ選手の試合を見ているような気分になる。それはそうだろう。安くない金額を年に1度か2度のイベントに使うのだ。誰でも真剣になる。

そんな顔を見ていると「この仕事も悪くないな」と思うのだ。