蓋に恋した男
先日、以下のニュースを見かけた。
「下水道で自慰なんて!」と笑うことは容易い。あるいは、「公衆門前でするなんて!」と批難することは容易い。
しかし、もし、彼が本当にこの下水道の蓋に恋していたならば、どうだろう。
彼が、あの下水道の蓋に出会ったのはもう5年前だ。自分が仕事でミスをして落ち込んでいる時にその蓋と出会った。下をうつむいて歩いていたからの出会いだった。
その蓋はまるでペトラ遺跡のように美しかった。神々しく、光って見えた。一目惚れだった。
それ以来、彼はその道を毎日通り続けた。引越をすると通勤路が変わるから、引越もしなかった。雨の日は水を吸い込むその様が愛らしかった。また雪の日は、こっそり雪をどかして上げた。夜中にこっそり雑巾でふいてあげることもあった。
そんな関係を3年続けた。
すると蓋が何か喋りかけているように思えた。
「今日は仕事はどうだった?昨日は何を食べたの?」と。
彼は蓋の上で毎日5分のおしゃべりを楽しんだ。
そんな友達の関係が1年続いた。
そして、彼はついに意を決した。告白したのだ。「考えさせてほしい」というのが蓋の回答だった。一週間後、蓋は回答した。お断りだった。蓋は「私はここから動けず、あなたに優しくできないから、あなたを苦しめさせるだけ」と言った。
それでも彼は諦めなかった。何度も通い、「僕はあなたがそこにいるだけで十分だ」と言い続けた。それでも蓋は愛を受け入れれなかった。時には黙ってしまうことさえあった。
それから1年。ついにその日がやってきた。ついに蓋は、彼の申し出を受け入れた。恋人の関係になることを認めた。彼は思わず蓋を上下裏返しにして戯れたものだ。まるで恋人同士がハグをし合うように。
それから、彼は初めての性行為を蓋とすることになった。その後のお話はニュースになっている通りだ。
彼女が夜は寝ているから、昼間にせざるを得なかった。彼は結果的に捕まった。でも、彼は満足している。無事に蓋と行為を遂げることができたから。
もし、このように彼が本当に蓋に恋をしていたならば。誰が彼を笑うことができように。マイノリティの人たちにもマジョリティの人たちと同じ人権があるように、彼にも当然、同じ人権がある。
少し人と異なって蓋が好きだった、というだけで。
もしかしたら、蓋好きの人たちがいつかデモをするかもしれない。蓋との自由な性交を求めて。もっとも、その時は自宅でする必要はあるだろうけど。