寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

歩く財布

その男が、いつ財布を落としても、気づけば家の前に財布が置かれてあった。

ポケットを触って「あれ、ないな」と思っても、数日後には家の前に財布が置かれていた。

いつもそのように返ってくるから、男は「不思議だな」というのも思わずに、そういうものだ、と思っていた。財布というのは、勝手に家に返ってくるものだと。

ただ、私達の知っている世の中はそのようにはできていない。財布には足はないし、ましてや、帰省本能はない。むしろ、家出をしたがるものだ。どれだけ多くの人が財布をなくし、涙を流したことか。きっと映画タイタニックで流された涙よりも多くの涙が財布の家出には流されたことだろう。

でもその男の元にはきちんと財布が帰ってきた。

なぜか。

そのコンゴのダフサルという町では、お金がそもそも必要ない町だからだ。だから、財布にもお金が入っていない。男はファッションで財布を持っているだけ。落としても、街中の人が顔見知りだから、「またあの坊やが何か落としている」と家の前にまで届けてくれる。

だから、男は、財布は家に返ってくるものだと思っている。

世界には、財布が自動的に家に帰る町もある。我々はそんなことはしらない。お互い知らないことが多いのだ。