寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

僕らの高層マンション7日間戦争

空前絶後の高層マンションブームである。

先日は、「砂の塔〜知りすぎた隣人」という高層マンションを舞台にしたドラマが放送された。また湾岸エリアの高層マンションの値段もピークを迎えている(少し下り坂だけど)。

今日は、そのような高層マンションで起きたある争いを紹介したい。

舞台は湾岸エリアの42階建のWという高層マンション。地域のランドマークタワーで1000を超える世帯が住んでいるメガマンションだ。

このマンションの争いのきっかけは2種類のエレベーターだった。1つは高層階用、もう1つは低層階用。つまり高い階の人と低い階の人が使うエレベータとしてわけられていた。考え方としてはおかしくない。どのオフィスビルにもある仕様だ。

しかし、その分け方が、いつしかマンション住人たちの意識さえも分けた。高層階の人たちは低層階に対して、「俺たちはお前たちより高い場所に住んでいるんだ。値段も、高さも」という意識になり、いつしか低層階の人たちを見下すようになった。

「あら、低層階さん」という蔑称まで出てきたほどだ。ママさんつながりも高層階と低層階で分かれ、管理組合も、まるで常任理事国非常任理事国のような差があった。

きっかけはある日のことだった。

低層階に住む女の子が「お前は低層階だから、仲間に入れない」と、高層階の子供たちにいじめられた。同じマンションゆえに、小学校も一緒だったのだ。高層階の人だからといって全員が私立に入れるわけではない。ラテン橋というマンション近くの橋で起こった出来事だった。

しかし、そのいじめられた低層階の子の親が、イスラエルの諜報機関「モサド」で経験を積んだ勇姿であった。子供をいじめられたその親は激怒した。

そして低層階の人たちを集めた。同じように低層階の人たちは高層階の人たちに不満を持っていたのだ。求心力は強かった。その事件から一週間後、低層階の人たちは高層階の人たちに宣戦布告した。

「低い場所に住んでいても、人権の差はない」というビジョンを打ち出した。「低層階の方が地震がきた時に安全。火事になった時も早く逃げられる」と低層階の利点を打ち出し、「低いは早い」というスローガンを掲げた。戦争の火蓋が切って落とされた。

ある時、高層階にだけゴキブリが異常発生する事件が起きた。それは低層階の人の嫌がらせだと考えられた。しかし、「どうやって実現した」かわからなかった。高層階の人たちは悩んだ。なぜなら高層階のエレベーターで止まる階を押すには鍵が必要だ。低層階の人たちは鍵がないのに、どうやって高層階に登ったのか?

謎は防犯カメラが捉えた。犯人は、高層階に降りてゴキブリをばらまいたのではなく、高層階用のエレベーターにゴキブリの卵をばらまいたのだ。その結果、高層階にだけ、ゴキブリが異常繁殖することになった。

迎撃戦として高層階の人たちが始めたのは、上層階からの水掛けだった。重力という力を手に入れた高層階の人たちは、上の階から水をこぼし、低層階の人たちのベランダをびしょ濡れにした。

それに対して、低層階の人たちはドローンを駆使した。ドローンで上層階のベランダを撮影し、それらをマンション内にばらまいた。高層階の人たちは、まさか30階で外から覗かれるなんて思っていないから、裸や痴態を晒すことになった。

高層階の人は「いい景色」という高層階からの眺めをInstagramに投稿し続け、低層階の人たちをメンタルから攻撃した。

低層階の人たちは、科学の力を使い、ベランダで魚を焼いて「サンマの煙攻撃」を高層階の人たちに仕掛けた。

このようにして、Wの高層階、低層階戦争は2年に及んだ。

2年後、高層階と低層階の講和条約を実現したのは一体何だったのか。それはジャンヌ・ダルクでも、飢饉でもなかった。

それは、向かいに建築されることになった高層ビルのせいだった。

Wに住む人たちは、高層階と低層階が協力してマンションの価値をあげないと新しいビルに価値を奪われる可能性があった。マンションの価値を維持しなくては、というのが高層階と低層階の共通する見解だった。

こうして、Wの2年に及んだ高層/低層戦争は終わった。そして、高層階と低層階が一緒にBBQをするというマーティン・ルーサー・キングが望んだ世界が実現した。我々はそれを未来と呼んでいる。