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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

「写ルンです」で撮ったもの

「写ルンです」が、いま改めて人気らしい。

あのフィルムの雰囲気が良いのだろう。当時、使っていた人間からすれば、手巻きや現像のメンドクサさは懲り懲りだが、若い者には、それ自体が新しく珍しいのだろう。

だから、温泉旅行に彼女が「写ルンです」を持ってきても、さほど驚かなかった。流行っているんだな、と。

僕はミラーレス一眼で写真を撮り、彼女は写ルンですで写真を撮る。出来上がりの違いは面白い。

旅行ではたくさんの写真を撮った。細くて高い滝やいきの良い海鮮料理、道端で売っていたみかん。湯気の香る温泉や道中で立ち寄った小さなカフェのドリップコーヒー。2人で構図を決めてワイワイ言いながら。

旅行が終わり家に帰る。彼女が言う。

「2枚だけ残っちゃった」

そうだった。「写ルンです」には枚数がある。現像に出すのは、それを撮りきってからの方がいい。

「じゃあ、撮ってあげるよ」と僕は写ルンですを手にとって、彼女を撮る。ジコジコとフィルムを回す親指の感覚を懐かしみながら。

「久しぶりに撮ってくれたね」

と笑顔で彼女が言う。

そうだった。最初の頃は僕は彼女をよく撮っていた。しかし1年以上付き合うにつれて、彼女を撮らなくなっていた。被写体としての彼女に飽きたのか、それとも、彼女への興味が薄れたのか自分でもわからない。

でも、僕は彼女を撮らなくなり、彼女は自分が撮られなくなってきたと知っていた。

僕が「写ルンです」で撮った彼女は昔よりも笑顔だろう。僕は昔よりも彼女をきれいに撮れているだろうか。僕は彼女をどう撮っただろうか。

現像に時間がかかることがもどかしい。