帰宅途中の家の灯り
いつも灯りが灯っている家があった。夏は窓を明けているからだろう。たまに笑い声も外に漏れてくることもあった。
男はその灯りが好きだった。
駅から遠い男の家。畑と空き家ばかりの帰り道。
そんな帰宅途中にあるその一軒家の灯りは、男にとっての灯台のようなものだった。行き先を間違えないように見守ってくれる灯り。仕事で帰宅が遅くなった時もその家に灯りが目に入ると、「起きて待ってくれていたんだな」と、励まされた。薄暗い帰り道を灯して、男を助けてくれた。
同時に、安らぎでもあった。家に帰っても誰もいない。でも、この家では灯りを灯してくれている。1人じゃない、と勇気づけられた。
ただ、ある日、電気がついていない日があった。それまでも何度か暗かった時はあるので「今日は残念だな」と思った程度だ。
でも、翌日も翌日も真っ暗だった。「おかしい。旅行かな」。男は不安になった。暗い日が一週間は続いた。
男は自宅に帰ることが怖くなった。灯りのなくなった道を1人で歩くようなものだ。不安で、そして、怖い。
家に帰ることが怖くなった男は、ネットカフェで寝泊まりをする日が続いた。しかし、お金は続かない。男はいやいや暗い夜道を帰ることにした。
「どうして灯りをつけないんですか」とその家もインターホンを鳴らしたこともある。でも、誰もでなかった。もしかしたら引越したのかもしれない。あるいは事件に巻き込まれたのかもしれない。
「では、自分で灯りをつけるしかない」と男は考えた。男は家の周りに灯油をまき、ライターを投げ込んだ。
ぶわっと炎が広がり、その暗い家を明るく照らし始めた。
男は満足して、家に帰った。
この辺りが家が少なく薄暗いのは、「放火魔が出る」と言われて誰も住みたがらないから、ということを男は知らない。