眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

思い出のC201H

特別お題「おもいでのケータイ」

最初に買った携帯はIDOのC201Hだったように思う。cdmaOne端末ということで鳴り物入りで登場した端末だ。音質が良いということで「携帯電話と気付かない!」という声も聞かれた。

その電話につけていたストラップが原因で僕はミサコと仲良くなった。大学のサークルでたまたま一緒になったミサコが僕の付けていた犬のストラップを見て「犬好きなんですか」と話しかけてきてくれた。

そんな彼女のストラップも犬だった。僕はパグで彼女はゴールデンレトリバーだった。そして2人で犬の話で盛り上がった。テニスのサークルなのにテニスの話は全くせず犬の話ばかりしていた。

そして僕たちは自然に付き合い始めた。大学生になったばかりの浮かれた若者が同じサークルで出会った子と付き合う。いまさらドラマでも聞かない陳腐なストーリーだけれど。

それなりに仲良くやっていたと思う。大学生は時間があるから、空き時間は一緒に食事をしたり、時間を潰していた。彼女は文学部で僕は法学部だったから、授業は違ったけれど、一般教養の時間では一緒に授業を受けることもあった。オープンカフェにもよくいって、犬の散歩を眺めていた。

ただ大学生は移ろいやすい。いつしか彼女からのメールが減り、会う回数も減った。僕もサッカーのサークルが楽しくなり、休みの日はサークルばかりしていた。彼女は、喫茶店のバイトに忙しかった。キャリアからの通信料の請求が毎月減っていった。

終わりは唐突だった。

ある日の夜、用事があって僕は彼女に電話した。サークルの合宿か何かだった。

彼女の部屋に電話をしたのだけれど、つながらないので、携帯に電話をした。当時は携帯電話代が高かったから、まだ家に電話をかけていたのだ。今では想像できない時代だ。

携帯に鳴らすと、しばらくのコール音の後に彼女は電話にでた。そして、僕は彼女と合宿の話をした。

「いま、どこにいるの」と僕は聞いた。家にいないのだから、当然の質問だった。

彼女は「マチと飲んでる」と答えた。僕は言葉を失い、しどろもどろになった。「そっか」と言った。そして電話を切った。

彼女の友人マチは僕の友達と一緒にいる予定だった。彼女はいま、マチと一緒にいない。彼女は嘘をついている。

そこからわかるのは、1つだけだった。彼女は浮気をしている。

こうして僕の1年ちょっとの恋愛は終わった。

cdmaOneの「家か外かわからない音質」のように、彼女の嘘も「本当か嘘かわからない」嘘だった良かったのに、と思った。

僕は、携帯を乗り換えるように、彼女を乗り換えることはできなかった。携帯のストラップだけを変えて、僕はそれからしばらく大学生時代を1人で過ごした。

大学の構内で彼女を見る度に、僕は持っているC201Hをぎゅっと握りしめた。今のiPhoneだと大きすぎて握りしめることはできないだろうな、と思う。当時、C201Hがあってよかったな、と思った。

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