眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

食事は独りで?それともみんなと?

Netflix野武士のグルメお題「ひとり飯」

「独りで食事するよりも、みんなで食べた方が美味しい」なんて戯言が、世の中にまかり通っているのはなぜなんだ、とトオルが言う。

話をしながらの食事だと、食べ物の味がわからないじゃないか。あるいは、話が盛り上がっている最中だと箸を止めてしまって、食べたいベストのタイミングを逃すかもしれない。できたてのだし巻き卵が固くなっちゃうよ。

そう考えると、食事をして美味しいのは「独りの時」にきまっている。

ミチコが、手羽先を食べながら答える。

食べ物を味わうことが好きなメンバーと一緒に食事をすればいいんじゃない。そうすれば、食べたい時に食べられるし、食べている時は会話をしないで済む。お互い、空気を読んで、大切な時には喋らないんじゃない。

何より、レストランの食事だと、1品の量が多いでしょ。だから、美味しくたくさんの料理を食べるなら、たくさんの人数で行った方がいいのよ。この手羽先もそうでしょ。1人で手羽先を頼んだら、手羽先4本がきちゃうわよ。そうすると、他のご飯を食べられないでしょ。このだし巻き卵も食べられないわよ。ほら、冷めないうちに食べなさいよ。

それはそうかもしれない、とトオルは言う。でも、とビールを飲みながら続ける。

でも、たくさんの人たちで食事に行くと自分の食べたいものを選べないじゃないか。たとえば「今日は鍋を食べたい」と思っても、みんなの意見を聞く必要があるだろ。みんなが「中華いきたい!」となれば食べたくない天津飯を食べないといけない。メニューも自由には選べない。自分の嫌いなほうれん草サラダが出て来るかもしれない。

そういう時は1人で行った方がいいわね、とミチコは言う。

でも、食べたいものがあれば、自炊をすればいいんじゃない。

でもね、自炊も外食と同じよ。自分が食べるために料理をしてもつまんないのよ。誰かに食べてもらうために料理をするから楽しいし、美味しく作ろうと思えるのよ。トオルは自炊はしないからわからないかもしれないけれど。そう考えると、やっぱり食事はたくさんの人でした方が楽しいんじゃない。あとほうれん草サラダは健康にいいから食べた方がいいわよ。

トオルは考える。ミチコの言うことはわかる。でも、やっぱり思い返すと、たくさんの人といった食事で楽しんだ記憶がない。そもそも「食事を味わいたい友人」なんていないのだ。みな「飲みながら話をしたい」という人たちばかりで、食事を楽しみたいという人は少ない。だから食事を楽しみたい俺だけが浮いているのだ。

はっと気づく。もしかすると「食事をたくさんの人数で楽しめる才能」というものが世の中にはあって、ミチコはそれを持っていて、俺はそれを持っていないんじゃないか。目の前にある手羽先が減っていくのを目にしながらトオルは考える。

そうだ、とあることに気づき、トオルはミチコに聞いた。

俺は何の料理が嫌いか知っているか。

知らない。パンケーキだっけ。

その答えを聞いて、トオルは理解した。ミチコは食事中の会話を適当にしているから、食事も楽しめるのだ。人の話なんざ聞いちゃいない。適当に直前の会話に反応しているだけなんだ。俺は会話を真面目にしすぎているから食事の手が止まるし、味もわからないんだ。

そもそも、みんなは「話をしに食事にきている」と言いながら、言葉を発するという行為を楽しんでいるだけなんだ。酔っ払った時の会話を考えればいい。なにひとつ生産性のある会話をしていない。なのにやつらは、その行為を求める。

トオルは理解した。自分の食事中の会話との向き合い方が悪かったんだ。もっと適当な会話をすれば、食事をしながら楽しめるんだ。

そうそう、パンケーキ。パンケーキはもっと甘くない方がいいよね。

トオルは手羽先を食べながら喋る。そして「やっぱり食事は1人で行くべきだな」と独り納得する。

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