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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

花見の席

もう少し早くくればよかった。

自分たちの花見の陣地は既に満席に近く、端しか空いてなかった。その端に座り、メンバーから配られたビールを飲む。

隣は大学からの友人の男性2人。大学時代で同じ時間を過ごした仲間だ。久しぶりでも、久しぶりの感覚を気にせず、気楽に話をできるのはありがたい。この1年の近況を共有する。

ただ、俺の心は気もそぞろだった。今回、仲良くなりたいアイコとはだいぶ離れた席になってしまった。みなは丸に近い形で座っていた。そして、自分がいる場所は、アイコとは真ん中に設置されたBBQセットを挟んで対岸に位置する。つまり一番遠い。

今日は彼女と話したかった。彼氏と別れたという話を聞いたのは1ヶ月前だ。多分、まだ新しい彼氏はできていないだろう。なんとかアプローチをかけたかった。

席替えがないのか、と思いながらも隣の奴らと会話を続ける。最近のテレビ番組の話題なんてどうでもいい。思わずビールが進む。

30分ほどが経ったころだろうか。小雨がふりはじめてきた。

雨がふれば、みなが席を立ち、席替えになるかも、と淡い期待を寄せる。しかし、その期待も桜の花びらのように華麗に散った。すぐに雨は止んで、席替えは起こらなかった。

期待があったからこそ、それが外れた時の失望は大きい。雨脚の弱さを批難するように空を見上げる。そして、視界に桜が目に入る。そういえば、花見にきたのに、アイコばかりみて桜を見てなかった。

やっぱりきれいだな、と思う。雨に濡れた桜もきれいだ。少し葉桜になっているが、それもまたいい。

そして、目を落とすと対面にアイコが見える。

「あ、この席はアイコを見るのに絶好の席だ」と今更ながら気づく。桜と一緒にアイコを見れる席だ。対岸だからこその。

そう考えると、この席が特等席のような気分になった。BBQの肉の焼き加減を見ているふりをしながら、アイコの笑顔をここからは自然に見ることができる。美味しそうにお肉を食べる所作や髪の毛をかきあげる仕草を見ることができる。

今日は花見だ。桜とアイコを見るだけで十分な宴なのかもしれないな。

何度もひっくり返された肉をもう一度ひっくりかえしてから、桜を見上げた。