寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

桜の季節

ちょうど付き合い始めたのも桜の季節の頃だった。

その頃は散る桜に「これからの暑い季節」を予感し、散る桜にさえも心を踊らせたものだ。

でも状況が変われば桜の意味も変わる。別れ話の後では、散る桜が我々の関係性のように見えて切ない。

隣の女性をふと見る。2時間前までは恋人だった女性。

桜が散るからこそ美しいというならば、恋愛も別れがあるから美しいといえるのだろうか。それならば、別れを前提としない結婚は美しくないということになるけれど。結婚は常緑樹ということか。

「まだ少し桜が残ってるね」と僕は言う。4月の終わり。桜の季節も終わりだ。

彼女が上を向いて、「ほんとうだ。若葉と残った花が混ぜ合わさってがきれいね」という。

続けて彼女は言う。

「桜の花って、地上に落ちても白いのがいいね。他の花だと茶色くなったりするじゃない。でも桜の散った後って、路上や川を白くして、白いままできれいだよね」

そんな発想を持っていなかった僕は彼女の発想を素敵だなと思う。「僕たちが別れた後も、桜のように、きれいなままでいれるとといいね」なんてことを思うけれど、口には出さない。別れた後にきれいなままなんてありえない。どこかに風に舞ってしまうか、踏みつけられて泥と一緒に茶色になるかだ。

結局のところ、彼女は地面に落ちた桜を見ていた。下を向いて歩いていた。僕は残る桜を見ていた。僕は上を向いて歩いていた。同じ桜を見ていても、そんなすれ違いがあった。

それでも、僕は下を向いて歩く彼女は好きだった。好きだけじゃ散る桜を止めることはできないのだけれど。