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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

絶望とローズマリー

つまらない会食の店を出ると雨。朝の天気予報では雨なんて言っていなかったのに。傘はない。

お店の傘を借りて、お客さんをタクシーに乗せて見送る。そして、今日は、私もタクシーで帰ろう、と思う。

月曜日からくたくただから、少しの贅沢。領収書は通るかな。

タクシーにのりながらぼーっとする。携帯を見るほどの力もない。ただ、窓から雨の降る恵比寿の街を眺める。ロストイントランスレーションのシーンを思い出す。

恋人とのゴタゴタ。大量の仕事。得意でないお酒のアルコール。全部が車に揺られて混ぜられる。タクシーに揺られながら寝たいけど、疲れすぎていて、眠れない。タクシー内だから身構えているのかも。

家に帰ってからすぐに眠れたらどんなに楽だろう。でも、気が滅入ることに、これから資料を作らないといけない。しかも、明日は9時出社だ。

絶不調、という単語が思い浮かぶ。

30分くらいのタクシーに揺られ、ようやく家につく。そして、3500円を払う。

傘もないから、マンションの入り口まで駆け足で走る。エレベータにのって部屋に入る。

そして、気づく。パソコンを会社においてきたままということに。

パソコンがなければ仕事にならない。

これから、タクシーで往復1時間かけて会社に戻る。その道のりを考えると、絶望的な気持ちになった。絶望という感情を表現するならば、いま、まさに私の感情だろう。

何もかも投げ出して眠りたい。でも、私は自分自身がそんなことをしないことを知っている。それも含めて絶望だ。もっと楽に生きることができればいいのに。

私は、脱いだばかりの靴下を履き直し、玄関を出る。

絶望は日常のいたるところに口を空けて待っている。まるで脱げ捨てられれた靴下のように。まるで月曜日の突然の雨のように。

帰ってきたら、とりあえずゆっくりと湯船に浸かろう、と思う。そして、こんな時のために買っておいたローズマリーの入浴剤を入れよう。全部、それから考えよう。

私は絶望の日常を生き抜くための知恵を持っている。そんな簡単に絶望の穴には落ちない。