寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

野球部のマネージャーの彼氏は誰?

野球部のマネージャーで、アイコという女の子がいた。かわいい女の子だった。今の子たちには伝わらないかもしれないけれど、タッチのミナミのような、少し勝ち気のある女の子だった。

もう1人、タカコというマネージャーもいたけれど、彼女は男勝りなキャラだったので、アイドルという位置付けではなかった。だから、僕たちのアイドルはアイコだった。

 

みなはアイコに応援してもらうために頑張った。彼女に喜んでもらいたいために頑張った。

中学生よりは自分の心の正直だけど、大学生よりは素直になれない思春期の僕ら。ただ、その持て余した感情を抱えて、それを発散するがごとく走り込みを続けた。彼女の笑顔をガソリンに走るトラクターだった。雨の日も、真夏の日も、土日も走り続けた。

でも、幸いなことにアイコには彼氏がいなかった。だからこそ、みなのガソリンであり続けた。一歩間違えれば、今でいうサークルクラッシャーになっていたかもしれない。まさに火がついたガソリンだ。ただ、彼女は特定の人と仲良くなるようなことはなかった。せいぜい、帰るタイミングが一緒になった相手と一緒に帰り、帰りにたい焼きを一緒に食べる程度の距離感だった。

状況が変わったのは秋だった。夏の県大会が終わり、少し落ち着いた。グラウンドには涼しい風がふきはじめた。

その頃、「野球部内にアイコの恋人がいる」という噂が経ち始めた。どうやら、アイコの友達が、アイコからその話を打ち明けられて、思わず拡散してしまったというのが流れらしい。ただ、その女の子も誰と付き合っているかということは聞かなかった。その結果、アイコの恋人探しが始まった。

思春期の僕たちはストレートにアイコに「誰と付き合ってるの」なんて聞けない。帰り道などをチェックして、誰が怪しいかを探った。部員全員がお互いに疑心暗鬼になったものだ。まるで、レザボアドッグスの映画のように。

でも、特定できない。アイコは特定の男子と一緒に過ごすような素振りはみせなかった。

我慢できなくなった高校生の僕たちは、ある日、部室に集まった。男だけd.え

「アイコと付き合ってる者は名乗り出ろ」と。しかし、2時間、お互いを探りあっても、結局誰も手を挙げない。

誰かが嘘をついているか、アイコの噂は嘘か。しかし、誰も嘘をついているようには見えない。高校生ならではの真摯さがそこにあった。お互い汗を流しあった絆はそれなりに強固で、お互いを疑うよりは信じる奴らだった。

「アイコの恋人が野球部にいる」という噂が嘘だったという結論になろうとした時、ある男が言った。

「監督じゃない?」

その一言が状況を変える。「確かに、監督と喋っている時は嬉しそう」「監督の車で家に送ってもらってた時もあったみたいだよ」「アイコは年上好きなのかも」と、いろんな話がでる。

そして、その場では「監督と付き合ってるのではないか」という結論で終わった。

それから、僕たちは練習に身が入らなくなった。アイドルであるアイコと付き合ってる監督に教えてもらうことなどない、という気持ちだった。

監督はサボる俺たちを怒る。でも、俺たちも同じくらい怒っていた。部が解散の危機だった。そして、僕達は甲子園に出ることなく終わった。

それから3年後のことだ。真相が明らかになったのは。アイコが付き合っていたのは監督ではなかった。同じマネージャーのタカコだった。

高校生の僕たちは、まだまだ想像力が足りなかったんだ。

いつか、監督に、謝りに行かなくちゃな。

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今週のお題「部活動」