寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

お店にまつわるエピソードを巡る冒険

彼はレストランを選ぶのが好きだった。そして、選んだレストランに行くと、必ずお店にまつわるエピソードを話してくれた。

- この松見坂のバーは、歌手の福山さんがオーナーという噂があるんだよ。本当かどうか知らないけど、雰囲気のあるバーだよね。ユキちゃんは福山好きだよね?

- このお店は、1960年にオープンして、当時またイタリアンが日本にない頃に日本に広めていったお店の1つなんだ。バジリコパスタを作る時に、バジルが手に入らないから、パセリや大葉を使ったんだって

- ここは、ブッシュ大統領がきた時に小泉首相と食べた和食なんだよ

彼が「エピソードのある店を選んでいる」のか、「行きたい店を調べるとエピソードがでてくる」からかわからない。多分、両方なんだろうと思う。

私は、あまり興味のない風を装っていたけど、実は彼のエピソードを聞くのが好きだった。

たまにそのエピソードに質問をすると、答えてくれたり、一緒に考えたり、「その指摘はその通りだね。気づかなかった。調べてみるよ」と言ってくれた。そのコミュニケーションも楽しかった。

だから、友達が選んだお店にエピソードがないと、まるでフレンチにデザートがないような気分になった。私自身が勝手にエピソードを調べることもあったほどだ。

だから、彼が私の誕生日に選んでくれたお店で、エピソードの話をしないということに違和感を覚えた。いつもは、店に着くまでの道のりか、席についた途中に教えてくれるのに。

そのお店は空間が広い素敵なお店だった。夜景があるわけでもなく、シャンデリアがあるわけではないけれど、落ち着いたこじんまりとした洋館だった。

どんなエピソードがあるんだろう。歴史があるのかな。芸能人がくるのかな。

私は、我慢できず、デザートの時に彼に聞く。ねえ、このお店のエピソードは教えてくれないの。

彼は少し沈黙した後に言った。

「この店は、僕がユキにプロポーズして、OKをもらうお店なんだ」

今までで聞いたエピソードで一番素敵なエピソードだった。でも、なんだか悔しくて私は言う。

「そのエピソードなら私はもう知ってるけど」